“兄さん姉さん”が後押し 引きこもりからの出発 第3部 青少年の心と向き合う 【育て!ちばの若人】(18)

  「放っておいてほしい」。男性からの手紙にはそう書いてあった。浦安市のNPO法人「ニュースタート」=二神能基代表(64)=では「レンタルお姉(兄)さん」と呼ばれるスタッフが自宅を訪ねたり遊びに連れ出して、若者たちの「脱引きこもり」を支援している。

  “お姉さん”の永富恵子(28)が、この県内に住む二十代男性の両親から依頼を受けて一年が経つ。しかし、男性とは会話らしい会話さえできず、手紙でのやり取りを求めると、そこには突き放すような言葉が書かれていた。

■“中間”で模索
 永富は「本人は学校に通いたいと言っているが、今のままでは正直難しい。いったん、ニュースタートの寮に入った方が良いと思うが、本人はそれを望んでいない」と頭を痛める。

 同NPOでは現在十六―三十八歳の約六十人が寮生活を送り、それぞれ喫茶店やデイサービス、保育園での手伝いなど仕事体験に従事している。寮生活は、自宅と社会の“中間地点”という位置づけだ。これまでも多くの引きこもり経験者たちがこれらの仕事体験を通じて仕事や学校への道筋を模索し、やがて卒業していった。

 鈴木龍(27)は昨年八月に入寮した。肌は日に焼け冗談を飛ばすなど快活な印象だが、彼もまた引きこもり経験者だ。二十一歳ごろ滋賀県から都内へ引っ越したのをきっかけに友人関係が断ち切れ、五年近く引きこもった。永富は当時の鈴木をよく覚えている。「まったく別人。肌が青白く生気がなかった」

 鈴木は「大きな理由があったわけではなく、ずるずる動けなくなったという感じ。昼と夜の感覚がなく、二十四時間起きて十二時間寝る、なんてこともあった」と当時を振り返る。「当初はレンタルお兄さんたちを避けていたらしいけれど、記憶にない。一人でいるより誰かと話したがっていたはず」。まるで他人について語るような口ぶりだ。

 週末、先の男性をボウリングに誘った永富に鈴木は同行した。鈴木は「三年以内には普通に働きたい」と青写真を描くが、まずは「レンタルお兄さん」になるのが夢だ。

 男性は約束の時間になっても待ち合わせ場所に姿を現さなかった。二人は電話で説得しながら一時間半待ち続け、ようやく男性と合流。しかし、ボウリング中、男性は一言も発しないまま帰っていった。

■「放っておけない」
 永富は「ノーの中のイエスを信じている。本人もこのままでいいとは思っていないはずだから」とあきらめない。鈴木は、かつて自分の部屋にやってきた“お兄さん”に「若いのにもったいない」と言われた時のことを思い出す。「今は自分がそう思うんです。だから放っておけない」

  九月のある日、新人用の市川市行徳の「明日葉寮」には、九州から到着したばかりの男性(32)の姿があった。一年前に鈴木が入っていた二一五号室。また新たな模索が始まる。(敬称略)


  • LINEで送る