家庭に入り保護者も教育 非行更生 草の根支援 第3部 青少年の心と向き合う 【育て!ちばの若人】(17)

  「眠れなくて」。非行少年の立ち直りを支援するNPO法人「友懇塾」理事長、井内清満(59)が県内の深夜営業レストランに到着すると、待っていた母親は悲壮な表情で駆け寄ってきた。

 父親との関係が悪化し、短期間の家出を繰り返す中学三年の長男(14)のことで悩む母親。これまで何度も話を聞いてきた。向かいの席に座った井内は、十分に間を取って言葉をかける。「十五歳ぐらいの子はこうあるべきだという意識がまだ強い。焦らずに頑張ろうよ、おれはずっと味方だから」

 千葉市青少年補導員として活動していた井内が、知人の中学校長に勧められ本格的に少年更生活動に取り組み始めてから二十年近くが経つ。

 井内はいつも片側の耳に携帯電話につなげたイヤホンマイクを付けている。非行少年と街頭パトロールを行うなどのNPO活動の傍ら、年間百件以上、街で声をかけた子どもや親からの電話相談を受け付けている。直接会って話を聞くこともある。

  この日、井内と先の母親は午後七時から深夜まで話を続けた。長男の問題は夏休みに入って悪化していた。

■「お母さんが悪い」
 相談後、多少落ち着きを取り戻した母親は「主人や学校に問題があると思っていたのに、井内さんに『お母さんが悪い』と言われ目からうろこが落ちた。大人を正面からしかってくれる人はなかなかいない」と、一人の草の根活動家を信頼する理由を語った。

  千葉市緑区の自宅敷地内には「友懇塾」と名付けられた離れ屋が建つ。一九九六年から一時は六十人以上の少年少女が自由に出入りし、悩みを打ち明けた。井内は「過去に何をやったかなんて聞かない。ここは教育の場。はしの持ち方から教えたよ」。

 しかし一方で、塾の役割に限界を感じてもいた。「また来なよ」。その先がなかった。

 十年前、家出の男子中学生が塾を訪れた。父親は教師で、日ごろから成績の良い兄と少年を比較しては自分の考えを押し付けた。井内は思った。「家庭に入らないと直らない」。井内は少年宅に通い続け、父親に子どもの話に耳を傾けるよう促した。親子は次第に関係を修復していった。

■親の“親”になる
 「おれが親の“親”になる。反発する保護者もいるが、子育てで悩むのは当たり前という世界をつくってあげると、少しずつ変わってくる。『非行少年』と一口に言っても、そこに至る過程が学校や家庭に必ずあるから」

  手応えが強まるにつれ、保護者からの相談は増えた。今は県外からの電話も珍しくない。

 一方、自宅の塾を訪れる子どもの数は減った。「寂しいですね」。人気のない離れ屋で記者がつぶやくと、井内は首を振った。将来、県内で非行少年たちを受け入れる高校をつくろうと計画中だという。“友懇塾”の新たな形。「子どもたちは答えをくれる。疲れないね」。来月で還暦。立ち止まるつもりはない。(敬称略)


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