「受給者に自虐・疎外感」 自立促す雰囲気作りを 明海大学経済学部長・下田直樹教授(57) 【貧困の闇 生活保護のいま】(下)

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 「悪意を持った積極的な不正受給は行政が毅然と取り締まることが必要」とする一方、「いつ誰が受給者になるかわからない現代社会」とし、「社会全体の貧困化と少子高齢化、若者の非正規雇用の増加など、生活保護受給者増加の背景に目を向けなければならない」と指摘する。

 少子高齢化は人手不足など社会の活力低下を招き、社会の貧困化の大きな要因となる。企業は国際競争力確保のために若者を非正規雇用し、将来に希望を持てない若者が精神を病むなどして受給者となるケースも増えているという。「約3割を占める非正規雇用労働者の若者が高齢者になった時が心配」とも危惧。対策として「非正規と正規の待遇の格差を無くす政治の取り組みが必要」とし、「そのためにも選挙に行くなど若者が声を上げることが求められる」と呼び掛ける。

 不正受給の増加の要因は受給者全体の増加とともに、摘発の強化もあるという。「アベノミクスの3年間で生活保護費を約740億円削減するという目標の下、行政側の対応が厳しくなっている」。

 意識の変化もある。「高度経済成長期には、国民が生活保護制度を自分には遠いものと感じ、受給者に対しても寛容だった」が、不正受給に敏感になった現在を、格差社会が進み「生活保護が身近なものになった」と表現。不正受給の通報は生活保護をぎりぎり受けない世帯からが多いという。

 ただ「生活保護自体を批判するのは、自分の首を絞めることになる」と警鐘を鳴らす。「税金を納めているのだから、国がなんとかしろ」という欧州諸国に比べ、日本は偏見を恐れて必要な人が受給できていないという。

 高齢のため再就職できず、社会から疎外された人が偏見から保護を申請せずに孤独死するケースも実際にある。「ぜい弱な日本の社会保障の中でも生活保護は最後のよすが。その制度自体を批判したり、締め付けてはならない」と語気を強め、高齢者の雇用には「現在の年功型の企業社会から、米国のように年齢に関係なく働きたい人が働ける『エイジレス社会』への転換が望まれる」。

 では、不正受給を減らすためにはどうすればよいのか。「『どうせ大した人間と見られていない』という、受給者を不正に走らせる自虐的な思いや疎外感を取り除き、社会全体で受給者の自立を促す雰囲気をつくらなければならない」とし、そのために「学校教育や社会教育での『生活保護は特別なことではない』という啓発や、行政が受給者の目線に立った対応をすることが必要」と提言した。

(社会部・金林寛人)

◇非正規雇用と高齢者の貧困

 総務省によると、非正規労働者は、バブル崩壊後の1994年に働く人のうち20.3%の971万人だったが、2015年には37.5%の1980万人に増加。企業にとって正社員より賃金が安く雇用調整しやすい。雇用が不安定でキャリア形成が難しく、生活苦の人は多い。雇用の不安定化が進み、金銭的な理由で結婚をためらう人も多く、晩婚化、少子化につながっているとの指摘もある。

 厚生労働省によると、生活保護受給世帯のうち、65歳以上の高齢者を中心とする世帯は16年3月時点で初めて5割を超えた。1人暮らしの高齢者が9割を占める。