2017年3月8日 11:40 | 無料公開

東京電力福島第1原発事故でかつて避難区域だった福島県楢葉町で、佐倉市出身の古谷かおりさん(32)がスナックの開店準備を進めている。元々の住民よりも、復興事業に携わる作業員が2倍近く多く住む町。互いに触れ合う場を設けて理解を促し「安心して暮らせる地域社会を下支えしたい」。復興へ向かう町を見届ける心づもりだ。
美術大学を卒業後、住宅建築や内装を手掛ける国内外の会社を渡り歩いた。目指してきたのは「人がいる空間を、より朗らかにする」。原発事故後、日常を断たれた第1原発周辺の人々の暮らしに思いを寄せた。
「作業員に対する悪いうわさが流れ、接点がないまま溝が広がっている」。復興を担う人材育成塾のフィールドワークで楢葉町へ通ううち、課題に行き当たった。
町全域に出ていた避難指示が2015年9月に解除された楢葉町。当時の町民約7400人のうち町に戻ったのは約800人にとどまり、町に住む作業員約1500人を大きく下回る。町民側には治安が悪化すると不安を口にする人が多く、双方の間には見えない壁があるように思えた。
「町民と移住者が顔の見える関係を築けるよう、気軽に出会える場所が必要なんじゃないか」。悩んだ末、自らスナックを開こうと決めた。
昨春、福島県郡山市の建築事務所に転職し、週末に高速バスと電車で約2時間半掛けて楢葉町へ通う。多くの出会いを通じ「人のつながりが生活に安心感をもたらす」と実感した。さまざまな人が集い、境遇の違いを尊重し合える店が理想だ。
7月の開店を目指し、5月には楢葉町へ引っ越す。「これまで近くて遠い存在だった隣人同士をつなぐことが、新しい地域づくりの土台になるはず」。混沌(こんとん)とした町に集う人々の交流に、大きな可能性を感じている。