


八千代少年少女合唱団は1977年に誕生して以来、真摯(しんし)に音楽と向き合って千葉県内を中心に海外でも美声を響かせている。新型コロナウイルスの流行により活動の縮小を余儀なくされたが、「豊かな心を育みたい」と徹底した感染防止対策の下で練習に励む。ウィズコロナの時代に合わせ、子どもたちに音楽の魅力を伝える合唱団創設者の長岡利香子さんに話を聞いた。
―長い歴史を有する合唱団は、どのような経緯で設立したのでしょうか。
長岡 私は元小学校の音楽教諭で、設立は合唱が盛んだった八千代市立大和田小学校に赴任したのがきっかけでした。当時、小学校卒業後に合唱を学ぶ場はなく、児童や保護者からの要望に応えようと教諭を辞めて立ち上げました。楽しく歌い、青少年の健全育成の一助になればと。
現在、3~17歳の男女約40人が団員として活動しています。
◆独学で指導法を習得
―合唱の指導経験はあったのですか。
長岡 幼い頃からピアノが大好きでしたが、声楽は学んだことがありませんでした。演奏会を聴いたり、都内で活動する有名な合唱団をお手本にして独学で勉強しました。
合唱はみんなで声を合わせて美しい音楽を作る達成感が魅力。どんどん引き込まれていきました。子どもの頃に聴いたウィーン少年合唱団の美しい音色がずっと耳に残っていて今の活動の原点になったのかもしれません。
―幅広いレパートリーがありますね。
長岡 子どもたちのリクエストに応えて選曲しています。創設当初はテレビやラジオでよく流れた曲が多かったですが、インターネットの普及に比例して動画サイトなどで人気の曲が多くなりました。ジャンルも国内外さまざま。難易度の高いケースもあります。子どものチャレンジ精神を受け止め、互いに納得するまで練習してきました。
【国際コンクールで1位】
◆八千代市初の市民栄誉賞受賞
―結成当初から定期演奏会を開き、歌声の素晴らしさが口コミで海外まで広がりましたね。
長岡 1984年に合唱を愛好するマレーシア国王に招かれ、初めての海外公演をしました。86年には中国政府機関に招かれ、北京、天津、上海で舞台に上がりました。北京の合唱団が私たちを目標に練習に励み、八千代少年少女合唱団と同じデザインの制服を着て訪日してくれたのはいい思い出です。
93年にはドイツ、96年には八千代市の姉妹都市の米・テキサス州タイラー市に招かれ、歌声を聴いてもらいました。
―2000年にハンガリーで開かれた「カンテムス国際合唱コンクール」で金賞第1位を獲得しました。
長岡 この大会には世界各国の合唱団が参加していました。ステージで「天使と羊飼い」「奄美の子守歌」を披露して舞台袖に下がると、関係者が駆け寄ってきて「スタンディングオベーションが起きている。早くステージに戻って」と。こんなに喜ばれた経験は初めてでした。
その後、米・ニューヨークのグラウンド・ゼロや国連本部、日中の記念式典の演奏会にも出演しました。八千代市にはこの実績を高く評価していただき、17年に市制初の「市民栄誉賞」を受賞しました。
言葉が通じなくても音楽なら気持ちで通じ合えます。心安らかな時間を提供できればと、お誘いを受ければどこへでも公演に向かいます。
―20年にオーストリア・ウィーンで開催される予定だったベートーヴェン生誕250周年記念演奏会「UTAU DAIKU」に国内の合唱団として唯一招待されましたね。
長岡 「アヴェ・マリア」や「きつね火」を歌う予定でしたが、コロナ禍の影響で渡航を延期しました。もう少しでウィーン少年合唱団と一緒のステージに上がる夢がかなったのに残念です。収束するまでもっと練習して備えたいですね。
◆連綿とつながる合唱文化
―コロナ禍で活動は変わりましたか。
長岡 昨年の流行から活動を全面的に休止しました。団員ともども歌いたい気持ちが募り、オンライン会議システム「ズーム」を使って合唱しました。団員の元気な姿がスクリーンに映るとうれしくて涙があふれてきました。
ようやく集まれるようになっても3密を避けるために少人数。歌うこともはばかられ、楽譜の読み方や書き方などの座学に励みました。過去の演奏会のDVDを鑑賞していると、団員の母親が小さかった頃の姿があり、親子二代で合唱文化が連綿と受け継がれていると再認識しました。コロナに負けられません。現在はマスクにフェースシールドを着用して時短スケジュールで練習しています。
―昨年の公演はほぼ中止。
長岡 伝統の定期演奏会は卒団公演も兼ねています。団員の集大成を皆さんに披露させることができず、本当に悔しかったです。
今年は規模を縮小しての開催にこぎ着けました。練習時間が確保できないために長尺の演目は難しく、団員も納得いかない部分があったと思います。でも開催できて本当に良かった。
【感動覚える本物の音楽】
◆年長者が指導自身の成長
―コロナ禍で変わった心境、伝えたいことは。
長岡 練習会場の確保も難しくなるなど新型コロナ禍での活動は制限ばかり。合唱への熱意があふれる団員の純粋な姿勢が、くじけそうな心を支えてくれました。
団員は練習時間の短い厳しい環境下で集中して技術を磨いています。年長者が幼い団員に教えることで自身の成長にもつなげています。合唱はつらい境遇に耐えるよりどころになっているのではないでしょうか。
子どもは、みんなで歌を奏でるだけで音楽に興味を持ちます。本物の音楽を体感すれば、言葉では表現できない感動を覚えます。コロナ禍でさまざまな制約がある中、大人として子どもたちの心を豊かにするチャンスをあげたい。そして音楽の代えがたい価値を知ってほしい。そのためにも皆さんに八千代市に根を張って続く合唱団の活動に目を向けてもらえればと思います。
練習は、3密防止へ広いスペースを確保できる八千代市民会館や総合学習プラザが拠点。練習時間も短縮し、団員は自主トレーニングにも励む。
コロナ前の練習は、創設以来拠点にしてきた市立大和田公民館で、土、日曜日に4~7時間取り組んでいた。現在は水、日曜日の1・5~3時間ほど。
団長の中村唯衣さん(16)は、母親が元団員で幼い頃から合唱は身近な存在だった。昨春、活動が全面休止になった際、団員と一緒に奏でる貴重さを実感した。短い練習時間を最大限に活用しようと、日々の自主練習で美声を磨く。中村さんは「日常から合唱を意識するようになった」とコロナ禍も前向きに捉える。
全体練習では、フェースシールドやマスクを着用するなど感染防止対策を十分に取ってレベルアップを図っている。中村さんは「演奏会やコンサートに向けて一致団結している。みんな合唱が大好き。これからも続けていきたい」と目を輝かせた。
問い合わせ:八千代少年少女合唱団 URL:https://ybgc.org