本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「命のみなもと」 「雪のひとひら」

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  命を考える時、決まって「雪のひとひら」の話を思い出す。夏に雪の本を紹介するのは恐縮だけれど、これは女の一生の物語でもある。女と限定しなくてもよい、命すべてについての物語だと、私はそう解釈して読む。

 美しい結晶を持つ〈雪のひとひら〉は、空で生まれ地に舞い落ちてくる。舞い降りながら彼女は思う。わたしはどこから来てどこに行くのだろう。どちらを向いても自分と同じ姿をしたきょうだいたちが大勢いるのにどうしてこんなにさびしいのかしら、と。そう思ったとたん、彼女は誰かに見守られているのを感じ、満ち足りた安らかな思いになって地上に降り立つ。そりに轢かれたり、雪だるまの中に閉じ込められたり、様々な目に遭いながら冬を過ごす。そして春、雪のひとひらは川の一部になって流れ出す。留まることのない旅の始まりだ。美しいものを見たり危険をかいくぐったり。やがて彼女は、運命的な出会いをする。同じ流れの中から〈雨のしずく〉がおずおずと声をかけてきたのだ。「きれいだなあ、きみは。ぼくと一緒に来てくれるかい」。この時からふたりはもはやふたりでなくひとりだった。あまりにしっくり溶け合ってしまったために、あたかも同じ頭で考え、同じ声で語り、同じ心で生きているようにさえ思えた。そのうち、ふたりの間には四人の子どもが生まれる。だが、一家は町へと流れ込み、そこで火事と出くわす。火は消し止めたものの、いつも彼女を雄々しく守ってくれた雨のしずくは、命絶えてしまう。傷心の雪のひとひら。慰めてくれたのは子どもたちだった。だが、その子どもたちも、やがて散り散りになって去ってゆく。再びの孤独。雪のひとひらも自分自身の終わりが近いことを悟る。

 擬人化された雪のひとひらの生い立ちを、ギャリコは美しくさらさらと綴ってゆく。ひとり生を受け、恋を知り、新しい命を育み、別離を味わう。最後はまたひとりで消えてゆく命。人生の流れに身をまかすひとつひとつの命は、あぶくさながら。方丈記の一節――朝(あした)に死に、夕(ゆふべ)に生るゝならひ、ただ水の泡にぞ似たりける――が思い起こされる。

 雪のひとひらのように、私も思う。人は何処から来て、何処へ還るのだろう。命のみなもとは、海だろうか、空だろうか。遙か遠くにある海と空とが交わる場所であろうか。どこであろうとも、その生まれた場所へと私たちはいずれ還ってゆくのだろう。...

【メモ】「雪のひとひら」/ポール・ギャリコ著/矢川澄子訳・新潮社

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【残り 1060文字】