素顔の健さんに会う

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 自然のままに離れるその先の愛と、執念にとらわれて絡み合う愛と、愛には天為(自然力)と人為(人間力)の愛があるが、高倉健の映画『あなたへ』の愛は前者の愛と思われる。

 最新作『あなたへ』は、これまでの高倉映画『網走番外地』や『幸福の黄色いハンカチ』などとは異質で、健さんの素顔がそれとなく見える作品だった。

 北陸の刑務所に、歌手の洋子(田中裕子)が慰問に来て、指導技官だった倉島英二(高倉健)と成り行きで対面する。

 洋子の慰問は、囚人らへの慰問というより、胸裏に潜む彼女の個人的対象を思いやるステージだったがその思いはいつしか方向転換し、なぜか英二をターゲットにしていて、意外と、やぼな中年男もその愛の行方に順応していた。

 結婚した二人にスター性はなかった。ちょっとかっこうよく、かわいらしくもあったが、俳優でなく、どこにもいる中年のおじさん、おばさんだった。目立たないままの名演だった。

 夫婦になり、さりげない幸福がずっと続くうち、フッと洋子が早世する。

 後日、亡き妻からの絵手紙が届く。そこには一羽のスズメの絵とともに、自分の故郷の海を訪れ、散骨して欲しい、との願いが記され、さらに二通目の手紙は、洋子の故郷である長崎県平戸市の郵便局留めになっていて、受け取り期限まであと10日という通知。

 北陸の地から九州の長崎まで、妻の真意を知るための遠距離ドライブが始まった。妻は夫婦だった記憶を消去させたいのか?...