2020夏季千葉県高等学校野球大会 あの瞬間を捉えた写真も多数

【千葉魂】4番安田、則本昂から猛打賞 井口監督の期待に応えた成長

7月31日の楽天戦でプロ初の猛打賞を則本昂から飾った安田(右)=ZOZOマリン
7月31日の楽天戦でプロ初の猛打賞を則本昂から飾った安田(右)=ZOZOマリン

 指揮官にとっても、若き4番にとっても忘れられないゲームがある。あれは安田尚憲内野手ルーキーイヤーの2018年10月6日。仙台でのイーグルス戦だった。相手先発はエースの則本昂大。困難な闘いになることは承知の上で井口資仁監督は5番サードで安田の名前をスタメン表に書き込んだ。そして若者を呼び寄せた。

 「きょう3打席で60打席に到達する。来年以降に新人王の資格を残すため、3打席で交代とする。そして今年は登録を抹消する。だから最後に日本を代表するピッチャーのボールを経験してこい。臆することはない。トップクラスのボールがどんなものか。通用するのかどうか。足りないのはなにかを感じてくれ」

 そんな指揮官のメッセージを安田は今も鮮明に覚えている。この試合、安田は3三振した。いずれも空振り三振。ストレートとフォークだけの組み立てだったが手も足も出なかった。「ほとんどストレート。それでも全然当たらなかった。プロのトップクラスのストレートはこんなにすごいのかと肌で感じた」と安田は振り返る。ベンチで見守った井口監督も「最後は向こうのバッテリーも哀れんでくれたのか見え見えのストレートを投げてくれていた。それでもインコースのストレートに空振り三振。ハッキリと覚えている」。力の差にもはや笑うしかなかった。
 しかし、それがその時の現実だった。そして新人王の資格を残すため3打席終わった段階で予定通りの交代。17試合に出場して60打席、8安打、1本塁打、7打点。打率1割5分1厘が1年目に残した成績。この年は再度、1軍に上がる事はなく翌19年もフォーム固めを徹底し、井口監督は2軍で4番として試合に出し続ける教育方針を貫いた。1軍の打線が湿りがちの時、安田の状態がいいという報告を受けた事もあった。ただ、あえて我慢を貫いた。中途半端に1軍に上げるつもりは毛頭なかった。それは3年目の2020年に大きな飛躍を期するため。2年目はひたすら1年目に味わった屈辱、トップレベルとの差を2軍で埋める日々にあてさせた。

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 そして迎えた安田3年目の今年。開幕から1軍入りをするとスタメン出場をする機会も増えた。当初は1軍のレベルに戸惑いがあったが徐々にアジャストするようになった。そして7月21日のライオンズ戦(メットライフD)で4番に座ると堂々とした立ち振る舞いを見せ続けた。これには井口監督も「チャンスに強い。なによりもストライクとボールを見極められている。4番も慣れてきたのか、どっしりとしている。元々、アマチュア時代に4番しか打っていないだろうから、4番が一番落ち着くのかもしれないね」と目を細める。

 そして7月31日のイーグルス戦を迎える。4番安田はあの日以来、イーグルスのエース・則本昂と相まみえることとなった。1打席目ストレートを中前打、2打席目カットボールを右翼線へ二塁打、3打席目カーブを右越え安打。プロ初の猛打賞を記録した。2年前に子供のように遊ばれた若者はチームの4番として堂々と対峙(たいじ)し全打席に出塁。エースを粉砕しチームの勝利を呼び込む立役者の一人となった。その姿を指揮官はベンチから見つめた。万感の想いをあえて抑えるように少しだけ笑顔を見せた。

 「毎日が必死です。新人王の資格を監督が気にしてくれて残してくれたのは本当にありがたいこと。そして今年はそのラストチャンス。そのためにも一日一打席を大切にしっかりとやっていく」と安田は語気を強める。井口監督も「ここから当然、調子の波はあるだろう。その波をどれだけ小さく抑えられるか。そしてピッチャーも2巡目の対戦を迎える。そこでどのように対処するか。4番としてのプレッシャーもあるだろうが、乗り越えてほしい」と誰よりも高い期待をしているからこその熱いエールを送る。

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 戦いの舞台は8月4日から安田の地元大阪に移る。1年目にプロ初ヒットを打った場所でもある。マリーンズの4番としての凱旋(がいせん)試合。重圧と向き合い、日々を大切に過ごしている若者は成長した姿を見せるのに絶好の場となる。フランスの著名な科学者ルイ・パスツールは「幸運は用意された心のみに宿る」という明言を残している。努力を重ね、日々を精一杯に生きている若者にきっと幸運の女神はほほ笑むはずだ。

(千葉ロッテマリーンズ広報・梶原紀章)



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