【千葉魂】若き打撃投手との友情 レアード、晴れ舞台に“新人”指名

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練習中のレアード(右)と中臺打撃投手。ホームランダービーでの共演はレアードの指名によって実現した=ZOZOマリン
練習中のレアード(右)と中臺打撃投手。ホームランダービーでの共演はレアードの指名によって実現した=ZOZOマリン

 明らかに場違いな雰囲気を感じながら若者は集合場所に向かった。7月12日、東京ドームで行われたオールスター第1戦。打撃投手として今年からマリーンズの一員となった中臺(なかだい)淳志は、ある使命を帯びて三塁側パ・リーグロッカーに向かった。試合前のホームランダービーに出場するブランドン・レアード内野手の投手役に指名されたのである。

 「レアード選手から『投げてみないか』と声を掛けてもらいました。え、ボクでいいの? というのが最初の感想。正直、冗談と思っていました。でも、実際にこの日を迎えた。光栄ですし、とてもうれしい。なかなか経験できることではないと思います」

 中臺は登板前、声を震わせながら、口にした。地元千葉出身で名門銚子商高から四国アイランドリーグplus徳島での選手経験を経て今年2月の春季キャンプから左腕の打撃投手としてマリーンズに加わった。最初は軽快に打者相手に投げ込んだ。しかし、少しずつズレが生じると悩みは深まった。打者に気持ちよく打ってもらうのが仕事。誰もが一度は通る道ではあるが、制球に苦しみだすと深い迷いが生じ、スランプに陥る。中臺は石垣島キャンプを打ち上げた時期から打撃投手の試練にぶつかった。

 「打ちやすいボールをもっと投げないといけない、とより意識するようになってからボールが抜けるようになった。そこから抜けないように意識して投げるとボールが引っかかるようになった。引っかかるのが嫌で投げたら抜ける。打者の方々に迷惑を掛けてしまいました」

 克服しようと必死に練習をした。練習前と試合後には一人、シャドーピッチングを繰り返した。下半身を安定させるためウエートトレーニングや走り込みも積極的に行った。そんな悩み苦しむ若者の姿を見ていたのがレアードだった。福岡遠征の際、食事に誘われた。寿司かと思ったがイタリアンだった。それから事あるごとに声を掛けてもらった。主力打者が気に掛けてくれていることがありがたく、身に染みた。

 ある時、「オールスターでホームランダービーに出場することになれば、打撃投手をやってほしい。テストをしよう」と提案された。冗談だと思っていたがオールスターの数日前にグラウンドで対峙することになった。「もう少しテンポよく速く投げてくれたらそれで十分だ。合格だよ」と握手を求められ、ホームランダービー出場が決まった。

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 オールスター当日。出番を目前に控え、緊張する中臺にレアードは語り掛けた。「この空間を楽しめ。なかなかできる経験ではない。エンジョイだよ」。そしてある約束をした。「もしホームランダービーが始まってキミが緊張をしているような雰囲気があれば、オレはニヤッと笑う。それを見たら肩の力を抜け」。そして本番。東京ドームのスタンドを埋め尽くす観客。両ベンチではスター選手たちが、打つレアードと投げる中臺だけを注視していた。テレビ中継も行われている。緊張のあまり、最初の練習として行われた3球はストライクゾーンには入らなかった。すると打席のレアードが笑った。ニヤリと大きく笑った。その笑顔で肩の力が抜けた。一生に一度しかないかもしれない舞台。楽しむことを決めた。2分半の持ちタイムで本塁打は2本。トーナメント制のホームランダービーにおいて1回戦負けとなってしまったレアードはそれでも笑顔で握手を求めてきた。

 レアードは言う。「マリーンズに今シーズンから入団し、彼がこれまで一生懸命努力しているその姿を見て、ぜひ今回のオールスターに連れて行こうと決めた。彼が楽しんで、また良い経験をしたことをうれしく思う。ホームランダービーは1回戦で負けたが自分も初めての参戦を楽しめた。だから良かった」

 心優しき助っ人はずっと見ていた。中臺の悩む姿と克服しようと努力する姿を。だからオールスターのホームランダービーという大きな舞台を経験させたいと考えた。大観衆が見守る中での体験がきっと若者にとって良い経験となり、将来に生きるはずだと思った。本気で優勝を狙うのであれば熟練の制球力のあるスタッフはたくさんいた。その中であえて最も制球に苦しむ若者を、キッカケになればと指名したのだ。

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 後半戦の練習後、中臺はレアードに声を掛けられた。「ホームランダービーでもそれくらいの球を投げてほしかったな」。ウインクをしながら、掛けられた言葉。それが褒め言葉であることをロッカーに戻ってから気が付いた。

 「裏を返せば『今までより良くなっているよ』ということだと思いました。あの舞台は僕自身にとっていいステップアップの機会にしないといけない。もっともっといい球を投げるようになってレアード選手に恩返しがしたいです。本当にやってよかったと思っています。レアード選手には感謝しかない」

 暑い日々が続く。中臺はいつも通り入念に準備をして仕事に就く。まだすべてを克服したとまではいかないが、明らかに今までと違う成長の跡がうかがえる。助っ人が準備した夢舞台が若者にとって大きなプレゼントになった事は間違いない。

(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)