【千葉魂】異例の即席サイン会 強風中止で見せた井口イズム

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台風接近による強風のためソフトバンク戦が中止になった後、ファンへサインする井口監督=4日、ZOZOマリン
台風接近による強風のためソフトバンク戦が中止になった後、ファンへサインする井口監督=4日、ZOZOマリン

 誰よりも先にベンチを飛び出した。ZOZOマリンスタジアムで行われる予定だった4日のホークス戦。台風21号の影響で場内の風速計は21メートルに達していた。午後6時12分に中止のアナウンスが流れるとスタンドからは悲鳴が上がった。その声に井口資仁監督はすぐさま立ち上がった。「ロッカー、ブルペンにいる選手もみんな呼んできて! 全員でスタンドにいるファンのみなさまにサインをしよう」。指揮官の掛け声にコーチ、選手たちがグラウンドに散らばった。

 「この風の中、せっかく来てもらっていたのでね。できることはやりたいと思っていた」

 突然の中止だけに当然、事前の打ち合わせはない。それでも井口監督はこの悪天候の中、わざわざ球場まで駆け付けていたファンを想い、とっさの行動に出た。これにマリーンズのコーチ、選手たちが続く。一、三塁側とそれぞれが自分たちの判断で分かれ、即席サイン会が始まった。すると今度は三塁側ベンチからホークスナインが飛び出してきた。両軍一緒にファンサービスが始まった。異例の光景だった。

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 相手チームのファンとかも関係ない。井口監督は差し出されたホークスのユニフォームなどのグッズにも率先してサインをした。うれしいことがあった。「青森から初めて見に来ました。サインがもらえてうれしい」。その一言が心に残った。急きょ決めたサプライズファンサービスが正しかったことを確信した。

 「青森から来てくれた家族がいたよね。交通費をかけて見に来てくれたのだと思う。あの人たちのように遠くから来ている人もいれば、あの日初めてプロ野球を見に来てくれた人もいたかもしれない。開門後の中止だとその人たちがガッカリするよね。少しでも気持ちが和んでくれていたらうれしい。『来てよかった』と言ってもらえた」

 雨天中止にいつも心を痛めていた。楽しみにしていたファンのことを想像して、なにかできることはないか考えてきた。だからこそ、たとえビジターゲームでも率先して動いた。熊本で行われた4月14日のホークス戦。開門後の試合前中止に「せっかく熊本の人たちが楽しみにしていたのだから」とベンチを飛び出し、即席のサイン会を始めた。

 「雨天中止は仕方がないことではあるけどね。でも中止の中でできることはあると思う。それはいつも考えているし、これからも何かできることはないか考えていきたい」

 ZOZOマリンスタジアムでのサイン会は強風の中、30分以上、続いた。三塁側で一通りサインを終えると、指揮官は今度は一塁側に向かい、ペンを走らせた。場内のいたるところでスタンドのファンに率先してサインする選手たちの姿があった。これもまた井口イズムの一つだろう。今季は開幕よりセカンドアップ前に選手たちが率先して一塁側フィールドウィングシート前でサインをするよう呼び掛けた。強制ではなく提案。いつしか選手たちは自ら足を運ぶのが日課となった。そしてこの日も指揮官の突然の呼び掛けに選手たちが応えていた。それもまたうれしかった。

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 ペナントレースもいよいよ終盤。開幕より掲げた機動力野球を実践し、飽くなき挑戦を続けてきた。しかし、目指していたのはグラウンド内のプレーだけではない。プロ野球選手としてのあるべき姿もまた少しずつ伝えてきた。21メートルの強風が吹き荒れたZOZOマリンスタジアムで井口イズムの浸透度が垣間見えた。

(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)