【千葉魂】井口監督が伝えた想い 勝負所でマウンドへ

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ベンチから選手に言葉を掛ける井口監督(右端)。昨秋の就任時から選手との対話を重視している=ZOZOマリン

 待ったなし。そう判断をするとベンチを飛び出した。8日、東京ドームで行われたファイターズ戦。初戦と2戦目を落として迎えた3戦目。必勝を期してのゲームは2-2の同点で七回を迎えていた。1死満塁の大ピンチで井口資仁監督がマウンドに送り出したのは左の松永昂大投手だった。好調の3番近藤健介を見逃し三振。左対左の勝負を終え、お役御免かと思われた時、指揮官がベンチを飛び出した。

 「マウンドの松永もビックリしてたね。1人抑えて、ちょっとホッとしてしまう場面でもあったから、もう一度、気持ちを締め直してほしいと思った」

 新監督が自らマウンドに向かうのは初めてのことだった。内野手と捕手を集めるとまずピッチャーに想いを伝えた。「もう1人、行ってくれ。4番を抑えてくれ」。そして続けざまに不敵な笑みを浮かべ内野陣に語り掛けた。「野手は声を出して、ちゃんと守ってあげてくれ」。緊迫したピンチの場面。それでもマウンド付近に集まった内野陣からは監督の檄(げき)に笑顔すら見られた。それを見た松永も一度、肩の力をフッと抜くと気持ちを入れ直した。今のマリーンズを象徴するシーンだった。

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 「最初、監督がベンチを出た時は、ああ、やっぱり交代で審判に次の投手を告げにいったのだなあと思っていた。そしたら監督がマウンドに向かって歩いてこられたからビックリした。左を打ち取るのが自分の仕事と思っていたところがあったので、少し気持ちを切らしてしまっていたところがあった。あれでもう一度、集中することができた。信頼してくれている気持ちを感じた」

 大事な場面をそう振り返った松永はファイターズの4番中田翔を遊ゴロに仕留め、ピンチを切り抜けた。結果的に試合は延長十一回に勝ち越しに成功し、連敗はストップ。同一カード3連敗の危機は一転した。流れが変わったターニングポイントは間違いなく指揮官がマウンドに向かった場面だった。

 「流れを考えてもあそこだと思っていた。一番のポイントだった。照準を合わせていたはずの近藤を三振に打ち取った松永にとってもう一つ、相手の4番を抑えるという難しいシチュエーションを乗り切ってもらうためにも、マウンドにいって一呼吸を入れる必要があると感じた。左だけではなく右の強打者を抑えたことで自信にもなったと思う。信頼にしっかりと答えを出してくれた」

 想いは功を奏した。そして沈滞気味だったムードは心の想いを伝えた瞬間から一変した。野手出身の監督だが、投手の行動を誰よりもチェックしている。そしてどのような想いで取り組んでいるかも考えている。その中でマリーンズのブルペンで唯一の左投手である松永が任されている仕事の難しさを尊重していた。だから、あの場面で躊躇(ちゅうちょ)なく初めての行動を取った。マウンドに足を運んだ。どうしても気持ちを伝えたかった。

 「松永は試合のポイントの選手。左キラーとして左の強打者相手にどの場面でも出番はありえる。試合でいうと六回も七回、八回も出番はありえる。だから、自分たちが見えていないブルペンで何度も肩をつくっているだろうし、急きょもある。一番難しい仕事だと思う。それだけに直接、想いを伝えたかった。これからも左だけではなくていろいろな場面で投げてもらう」

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 開幕から好調を維持している井口マリーンズが大事にしているのはコミュニケーション。自身が想っていることを選手にどのように伝えるのが一番効果的なのかをいつも思案している。同点で迎えた七回2死満塁で打席に4番を迎えたピンチの場面。井口監督はマウンドに向かうことを選択し、想いを伝えた。試合後の監督室。若き指揮官は初めての体験を笑いながら思い返した。

 「ベンチからマウンドに行くなんて現役時代にないからね。本当に初めてだった。思ったより距離を感じたなあ。スタンドの皆さんもみんな、そこに注目をしているし、帰りも遠かった。ああ、こんなに距離があるんだと感じたよ」

 開幕から半月。パ・リーグ相手の対戦は一回りした。その中でマリーンズの野球はもっとも新鮮で躍動感があり活気がみなぎっている。対話を重視しながら最高の答えを導き出す新しい監督像でパ・リーグの台風の目となっている。戦いは始まったばかり。だが、明らかに違う風が吹いている。それは今までにない心温まる風だ。

(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)