
開店と同時に大男たちが続々とのれんをくぐった。指揮官に続き、キャプテンの鈴木大地内野手、益田直也投手、三木亮内野手、中村奨吾内野手、江村直也捕手、田村龍弘捕手がテーブルについた。うな重の大盛りを7人前。伊東勤監督が福岡遠征の行きつけにしているうなぎ店で、舌鼓を打った。最初は緊張していた選手たちだったが、うなぎの美味しさに乗せられたかのように、指揮官との会話は弾んだ。思いの丈をぶつけ、さらに冗談を言って笑い、時には真剣に監督の話を聞き入った。
「なかなかこれまでそういう機会もなかったからね。ちょっと昼食に若い選手を連れて行ってあげようかと思ったんだ。香ばしくて、歯ごたえがあって、ふっくらした食感のおいしいうなぎを、選手たちに食べさせてあげたかった。タレも美味しいんだよ」
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打撃ケージの後ろで若手選手の打撃を見ながら、伊東監督はその時の意図を話してくれた。誘ったのは4月3日のオリックス戦(京セラD)の試合前練習中。試合後に福岡に移動。翌4日は休みというスケジュールだった。キャプテンの鈴木に声を掛けた。「おいしいうなぎのお店が福岡にあるんだ。明日の休みの日に行ってみないか?若手に声を掛けて、みんなで行こう」。突然の提案に、鈴木は驚いた。指揮官から食事に誘われる機会はそうあるものではない。ただ、リーダーとして考えた。チームにとって、これはとてもいい機会だと思った。
「自分はキャプテンをやっていることもあって、監督とお話をする機会は多いけど、若い選手はなかなかあるものではない。この機会にいろいろと話ができたらと思った」
鈴木と、すでに予定のある選手以外の5選手が参加をした。福岡の宿舎から車で5分ほどの距離だが、開店時には行列のできる福岡の人気店。だから、開店10分前の10時50分に到着した。並ぶことも覚悟をしていたが、月曜日ということもあり、幸いすぐに入店することができた。最初は緊張をしていた選手たちがおいしそうに食べる姿を指揮官はうれしそうに眺めた。食べ終わる頃を見計らって、いろいろな話をした。
「自分の選手時代の経験を基に、今、なにをしないといけないか。どのように取り組まなくてはいけないか。どういう考え方が必要か。いろいろな話をしたね。グラウンドで指示をすることはあっても、食事をしながらというのはこれまであまりなかった。いい機会になったかと思う」
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翌5日からのホークス3連戦。若手選手たちが躍動した。5日の試合では益田が2イニングを1安打、無失点。厳しい試合を引き分けに持ち込む立役者となった。守備固めで途中出場をした三木は難しい打球を処理し、投手陣を助けた。6日は中村が今季1号の2ラン。翌7日も4安打と結果を出した。「うなぎ効果だな!」とベンチで声を掛ける指揮官に中村は「ハイ!」とうれしそうに笑った。その光景にキャプテンも手ごたえを感じた。
「今まで距離があった若い選手たちが、食事をキッカケになにか変わったように感じる。厳しい人で試合では怒られることが多いかもしれないけど、ユニホームを着ていない時は本当にいいお父さんのような方。あの日も野球の話もあったけど、世間話とか自分が現役時代の笑い話だとか、いろいろな話をしてくれた。この人を胴上げしたいとみんなあらためて感じたと思います」
敵地・福岡でホークスに2勝1分け。若手選手の活躍がチームをけん引し、開幕から好調を維持している。今年も指揮官はげきを飛ばし、励まし、アドバイスを繰り返し、選手たちを引っ張り続ける。秋に最高の瞬間を迎えるために全員一丸で、気持ちを一つにして勝利を積み重ねていく。それがマリーンズの野球。伊東マリーンズの魅力だ。
(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)