【千葉魂】 スピーチに込められた決意 加藤、悔しい思いはもう御免

 順番が回ってきた。加藤翔平外野手は威勢よく席から立ち上がり全員の前に出ると、一呼吸おいてイッキに話し出した。決めていた。思いの丈をしっかり、指揮官に伝えようと。今の自分の考え、そして、今後どうありたいと思っているか。それを首脳陣と仲間たちに聞いてもらおうと。それは10月31日のこと。鴨川市での秋季キャンプを翌日に控え、集められた全体ミーティングで伊東勤監督は選手全員に、1分間程度のスピーチを求めた。今の意気込み、キャンプで取り組みたいこと、アピールポイント。与えられた課題は大まかで、あとは自由。その中で、加藤は思いをぶつけ、必死に語った。

 「チームがクライマックスシリーズに出ているのに、自分は2軍にいて、それをテレビで見なくてはいけないのは本当に悔しくて、つらかった。自分はミスが多い。送りバント、エンドラン、逆方向への打球。長打ではなくて、もっと細かいプレーをしっかりと積み重ねて、そして出塁をすることに意識した野球をしなくてはならない」

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 指揮官は黙って聞いていた。抽象的なスピーチが多かった中で、加藤は具体的に自分の欠点、課題を一つ一つ洗い出し、どう変わらないといけないのかを語っていた。何よりも、このキャンプで1軍首脳陣にアピールをしなくてはいけないという必死さがヒシヒシと伝わってきた。この若者が、どんな目をして話をしているか確認をした。強い眼差しで、必死の形相をしていた。シーズンが終わっているにも関わらず、それは闘う男の目、そのものだった。

 「(加藤)翔平は、なぜ、今年、1軍に呼ばれる機会が少なかったのか、しっかりと自己分析をしていた。具体的にこれからあるべきビジョンを私たちに語った。そしてこのままでは駄目だという自分を追い込む意志が伝わってきた。この企画の意図はそういうところにある。選手たちが、自分の言葉でどこまで自分の今の立場をしっかりと自己分析し、それを声に出して人に表現できるか。そこから何かを発見をしてもらいたい。それがスピーチの意図。このキャンプ、翔平にとって、いいキッカケにしてくれればいいね」

 誰にでも経験のあることだが、多くの人の前で話をするというのは、エネルギーのいる作業だ。思っていることを分かりやすく人に伝えなくてはいけない。特に自己を語るスピーチを求められた時、人は初めて冷静に自分を見つめ直し、それを感覚ではなく言葉に置き換える。その作業の過程で、ハッと自分の状態に気付かされることがある。指揮官は秋季キャンプに呼ばれた若手たちの何かのキッカケになればと、スピーチを課した。意図をくみ取った選手もいれば、そうでない選手もいた。ただ、人前で1分間、自分を語ることで、それぞれが自分と向き合い、自分を見つめ直したはずだ。

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 「来年に懸ける覚悟、感じましたね。みんなの前で言葉に出すことで本人もプレッシャーになる。勇気を出していた。変わらなきゃの思いを感じました」

 このキャンプで同部屋となった鈴木大地内野手はしみじみと後輩の言葉を聞いていた。そしてあの時の悔しそうな声を思い返した。思えば、昨シーズンの開幕戦。加藤は3月のオープン戦で2軍落ちをし、福岡での開幕戦にはいなかった。3月28日の開幕の日が誕生日。「福岡で誕生日会をしよう」と鈴木から叱咤(しった)されていた加藤は2軍でその日を迎えた。試合後、後輩を気遣い、電話をすると受話器の向こうで今にも泣きそうな声で「悔しい」と語った。そして今年。くしくも開幕は昨年と同じ福岡。誕生日はその2戦目だった。今年こその思いで臨んだキャンプ、オープン戦。しかし、現実は甘くはなかった。皮肉にもまたもや同じ時期に2軍落ち。結果的に1軍では21試合の出場にとどまった。同じような失敗をしていてはもう後がない。すべてを変えるぐらいの強い決意が今の加藤にはある。

 「来年こそは143試合、そしてクライマックス、日本シリーズと1軍で戦います。絶対にチャンスをつかみます」

 少し長めの、しかし熱いスピーチが終わった。悔しい思いはもう御免だ。悔いの残る思いはもうしない。加藤は連日、日が沈むまでバットを振り続ける。グラウンドが暗くなれば、室内に場所を移して打ち込み、体を動かす。実りの秋。若者はキッカケがあれば、どこまでもグングンと伸びる可能性がある。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)



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