【千葉魂】 チームもクワガタも救う 松永、欠かせないセットアッパー

 珍しい光景だった。1アウトを取った直後、マウンドにいた松永昂大投手(25)が、一塁側ベンチに戻ってきた。16日のオリックス戦(QVCマリン)、八回の出来事だった。誰もがアクシデント発生かと、心配した。よく見ると左手の指を押さえているように見えた。爪でも割れたか。最悪の事態すら想定したが、実はまったく違った。

 「クワガタムシがいたんですよ。マウンドのプレートの辺りに。危ないから、移動させないといけないなあと思って、1アウトを取ったタイミングで捕まえました」

 八回のマウンドに登った瞬間から、クワガタムシの存在は発見していた。全長3センチ程度の小さな、小さなクワガタムシである。プレート付近にいたので、そっと移動させた。投球練習をして、1球目を投げ終わった。マウンドに戻ると、またマウンド付近にクワガタムシの姿が見えた。

 「こりゃあ、まいったなあと思いましたね。野球が好きなのかな。投げたいのかなあって…。危ないけど、とりあえず1アウトを取って、プレーをリセットした状態の時に戻してあげようと思いました。それまでは大人しくしておいてくれよって願いました」

 また、そっと場所を移動させて、ピッチングに集中した。クワガタムシを踏まないように気を付けながら。1アウトを取ると慣れた手つきで掴むと、一塁側ベンチにいたボールボーイに渡した。

 「何度も何度もプレートに戻ってきましたからね。たかが虫の命と思う人もいるかもしれないけど、ボクにはそれは出来なかった」

 緊迫した八回の場面である。ピリピリした状態の中で迎えたあの状況。一般論でいうとピッチャーの多くはリズムが崩れるのを嫌がり小さなクワガタムシを意識することはない。というより気が付く事すらないと私は思う。しかし、ルーキーの松永はクワガタムシが目に入り、気になった。なんとか助けてあげたかった。まずは安全な場所に移動させて1アウトを取った。そして、グラウンド外に放ってあげた。その後もなにもなかったかのように飄々(ひょうひょう)と打者を抑え、この回を無失点で終えた。そのなんとも言えない小さな優しさを私は感じ取った。だから、どうしても紹介したくなった。

 「子どものころを思い出しましたね。香川の実家の近くにはカブトムシとかクワガタムシが沢山いた。小学生の時はよくピンセットとライトを持って取りに行きましたよ。ゼリーをあげて、飼っていた時期もありました。でも、その時も最後は逃がしていたかな。なんとなく可哀想だから。やっぱり自然にいるのが一番いいだろうなって思ってしまう」

 虫を労わる優しい心を持つルーキーは、今季、チームの躍進の原動力として51試合に投げて防御率1・89。安定感抜群のセットアッパーとしてチームには欠かせない存在となっている。ちなみに松永に救われたクワガタムシはコクワガタムシという種類だった。今、私がこの原稿を書いている横でゼリーを与えられ、虫かごの中で満腹そうにゆっくりしている。もちろん、近い日にどこかこの近くの森の中に返してあげようと思う。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)



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