慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の全国調査を実施

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国立大学法人千葉大学
有病者数が前回調査の約2倍に増加、過去最大規模の1257名分の臨床情報を収集

千葉大学医学部附属病院(病院長 横手幸太郎/千葉市中央区亥鼻1-8-1)の桑原聡教授、三澤園子准教授、青墳佑弥医師らの研究グループは、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の全国疫学調査を行い、 10万人あたりの推計有病者数が、2005年には1.61人でしたが、今回3.33人であることが明らかになりました。今後のCIDPへの治療指針の検討、治療薬の開発を進める上で重要な結果といえます。なお、本研究成果は2024年2月26日午後4時(日本時間27日午前6時)、Neurology誌に掲載されました。

【CIDP とは】
手足のしびれや力が入りにくくなり、手の使いにくさや歩きにくさが生じる疾患です。症状の改善や再発予防には「免疫治療」が有用で、近年、新規治療薬の開発が進んでいますが、再発など、完全に症状がなくならず、後遺症が蓄積し、日常生活が困難になる例が少なくありません。

【本研究の概要】
日本の有病者数は、2005年の疫学調査で10万人あたり1.61人と推計されていましたが、2010年の診断基準の改定に伴い、増加が見込まれることから、本研究では、新たに全国調査を行いました。
・一次調査
全国で脳神経内科・小児科を標榜する病院、述べ4966診療科に調査票を送付し、1919診療科から回答を得た結果、患者数は4180人(男性2482人、女性1713人)、粗有病率は人口10万人あたり3.33人(成人3.58人、小児0.23人)であることがわかりました。
・二次調査
一次調査で「症例あり」と回答した診療科に対して調査を行いました。1257名分の臨床情報を収集し、これまでで最大規模のコホート研究となります。その結果、「男女比は3:2で男性に多い」「発症年齢の中央値は52歳」「典型的CIDP(typical CIDP)が52%と最も多い」「初回治療では72%の患者に免疫グロブリン療法が選択されている」「78%は進行性/再発性の経過をたどり、14%は第一選択治療に反応せず、18%は最終診察時に自立歩行が不可能である」などがわかりました。

【脳神経内科 桑原聡先生・青墳佑弥先生のコメント】
本研究は、日本における最新のCIDPの有病率、罹患率などを示し、かつ世界的にもCIDPに関する最大規模のコホート研究です。現在の治療薬だけでは改善できない患者が相当数いることもわかりました。比較的若年者にも発症し、日常生活・就労への支障が生じうる疾患のため、新規治療薬開発に向けた貴重なデータベースとして本研究が活用されていくことを期待します。

【研究背景】
CIDPは免疫学的機序により末梢神経の脱髄性障害をきたす希少難治性疾患です。近年、免疫治療の進歩により新規治療薬の治験が複数開始されています。免疫治療は病態に沿った治療が重要ですが、CIDPは複数の臨床病型・背景病態が混ざる疾患と言われています。しかしながら、疾患の希少性により病型ごとの臨床情報、長期予後の報告は少数例の限られたものしかありませんでした。

【研究内容】
本研究では、CIDPの疫学、臨床像、治療の現状を明らかにすることを目的としました。
・一次調査では、全国の脳神経内科、小児科が所属する延べ4966診療科に令和2年4月1日から令和3年3月31日に受診したCIDP症例数をアンケートし、1919診療科(回収率:38.6%)から回答がありました。推計患者数は4180人(3810-4550人:95%信頼区間)、男性2482人(2254-2710人)、女性1713人(1528-1898人)でした。推計粗有病率は人口10万人あたり3.33人(成人3.58人、小児0.23人)、推計粗罹患率は人口10万人あたり0.36人でした(表1)。諸外国からの報告でも有病率は10万人あたり1.61-7.00人で、本研究と類似した結果でした。
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表1.推計患者数・推計粗有病率・推定粗罹患率
・二次調査では、一次調査で「症例あり」と回答のあった診療科に対して、各症例の年齢・症状・臨床病型・検査所見・治療経過などを調査しました。その結果、189診療科から1257人の患者の詳細な臨床データが得られました。性別は男性が60%とやや多く、発症年齢の中央値は52歳でした。臨床病型別には典型的CIDPが52%と最も多く、次いで遠位型CIDP
が17%、多巣性CIDPが17%を占めていました(図1)。
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図1.臨床病型
・発症1ヶ月以内に治療を要する急性発症型は全体の13%にみられ、特に典型的CIDPの臨床病型を呈しました。各臨床病型で比較すると、遠位型CIDPでは振戦や感覚性運動失調が生じやすく、多巣性CIDPで脳神経症状や筋萎縮を生じやすいことがわかりました。全てのCIDP患者において、治療開始3ヶ月後には約半数が、1年後には68%が、5年後には74%の患者が自立歩行できるまで改善していましたが、18%の患者は最終診察時にも自立歩行ができませんでした。病型別にみると、典型的CIDPでは治療前の時点で44%の患者が自立歩行できず最も重症でしたが、遠位型CIDPや多巣性CIDPに比べて治療に対する反応性は良好でした。最も多い病型である典型的CIDPを対象に行ったサブグループ解析では、発症年齢が若いこと、筋萎縮がないこと、神経伝導検査でAbnormal median-normal sural sensory response patternを認めることが、治療後に自立歩行可能まで改善する可能性が高いことが示されました。

【結論】
日本におけるCIDPの有病率、罹患率および臨床的現状を示しました。この研究は、世界的にもCIDPに関する最大規模のコホート研究です。治療に難渋する患者の人数を明らかにしたことで、さらなる新規治療法の必要性を示しました。そして、病型別の予後の違いを明らかにしたことで、今後のCIDP治療開発に向けては、各臨床病型の病態生理に応じた適切な治療戦略が必要であることが示唆されました。

【支援】
支援:本研究は厚生労働省難治性疾患克服研究事業「神経免疫疾患のエビデンスに基づく断基準・重症度分類・ガイドラインの妥当性と患者QOLの検証」(研究代表者:千葉大学 桑原聡)として、厚生労働省科学研究費補助金(20FC1030)の支援を受けて行われました。

【今後の展望】
新規治療を必要とする患者集団を把握し、予後改善につながる治療法の開発へと繋がります。

【論文名】
Prevalence, clinical profiles, and prognosis of CIDP in Japanese nationwide survey: analyses of 1257 diagnosis-confirmed patients(和訳:慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーの有病率、臨床像および予後に関する全国調査)
掲載紙:Neurology. https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000209130

【著者名】
Yuya Aotsuka、Sonoko Misawa、Tomoki Suichi、Kazumoto Shibuya、Keigo Nakamura、Hiroki Kano、Ryo Otani、Marie Morooka、Moeko Ogushi、Kengo Nagashima、Yasunori Sato、Nagato Kuriyama、Satoshi Kuwabara(和訳:青墳佑弥、三澤園子、水地智基、澁谷和幹、中村圭吾、狩野裕樹、大谷亮、諸岡茉里恵、大櫛萌子、長島健悟、佐藤泰憲、栗山長門、桑原聡)

【用語説明】
・慢性炎症性脱髄性多発神経炎(Chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP):免疫機能の異常により末梢神経の髄鞘が障害され、進行性・再発性の運動・感覚障害を生じる希少かつ難治性の疾患。
・粗有病率:ある特定の時点で、特定の疾病を患っている人々の割合を「有病率」といい、年齢による補正を行わない場合に、「粗」という語をつけている。
・粗罹患率:ある一定期間の罹患数(ある疾病と新たに診断された数)を単純にその期間の人口で割ったものを「罹患率」といい、年齢による補正を行わない場合に、「粗」という語をつけている。
・臨床病型:CIDPは運動障害、感覚障害の分布によって主に5つの病型に分類されている。四肢の遠位・近位に対称性の筋力低下を生じる典型的CIDP。その他をCIDP亜型と呼ぶが、その中には遠位部に限局して筋力低下を生じる遠位型CIDP、左右非対称性の障害を生じる多巣性CIDP、感覚障害のみを生じる感覚型CIDP、運動障害のみを生じる運動型CIDPの4つの病型が含まれている。
・第一選択治療:免疫グロブリン療法、副腎皮質ステロイド、血液浄化療法の3つの治療法のことを指す。CIDPに対して明確に有効性が示されており、まず選択すべき治療法としてガイドラインで推奨されている。
・自立歩行:杖などの歩行補助具を使わずに一人で歩行できることと定義している。
・Abnormal median-normal sural sensory response pattern:正中神経と腓腹神経の感覚神経障害の程度を評価することで判定する、神経伝導検査の所見の一つ。この所見を認めることは神経終末部に限局した障害を示唆するとされている。
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