磯の肉食巻貝 イボニシ 【海の紳士録】

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 イボニシは、アッキガイ科というグループに属する巻貝である。北海道南部以南の日本全域の潮間帯岩礁にくらしており、日本の磯の代表的な巻貝の一種といえよう。高さ3センチ程度の紡錘形で、殻の表面には黒っぽいイボが並んでいる。「にし」は巻貝を指す語なので、イボニシの名はそのままイボのある巻貝の意であろう。

 肉食性で、他の貝類やフジツボ類を食べている。これらの生きものは固い殻で身を守っているが、イボニシは固い貝殻にも穴をあけて中身を食べることができる。穿孔するときには、酸を分泌し、歯舌(しぜつ)というヤスリのような摂餌器官で削って穴をあけている。この際、貝殻の薄い部分やフジツボのふたのすき間など、なるべく穴をあけやすい場所を狙うという。また、特殊な分泌液を出して獲物を弱らせ、殻をこじ開けることもあるそうである。

 この分泌液はアッキガイ科の貝特有の物で、きれいな紫色になるため古くから染色に使われており、貝紫の名で知られる。イボニシは食用にされることもあるが、酸を持つため独特の辛味があり、地方によって「からにし」、「からいそもん」等ともよばれる。

 夏になると、日の当たらない岩壁などに多数のイボニシが集まる姿を見かける。場所によっては数百匹も集まることもある。これは産卵のためで、黄色い円筒状の卵嚢が岩一面にびっしりと産み付けられる。博物館前の磯では、今年もそろそろイボニシ達が集まり始める季節である。

 (千葉県立中央博物館分館海の博物館 村田明久)