原点の寄席 磨くため立つ 野田市出身・落語家 春風亭一之輔さん

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「お見立て」から。遊郭の客で流山市(野田市とも)の富農、杢兵衛へ、喜瀬川花魁のウソを涙ながらに伝える客引き、喜助をユーモラスな動きで表現する春風亭一之輔さん=昨年12月25日、都内の池袋演芸場
「お見立て」から。遊郭の客で流山市(野田市とも)の富農、杢兵衛へ、喜瀬川花魁のウソを涙ながらに伝える客引き、喜助をユーモラスな動きで表現する春風亭一之輔さん=昨年12月25日、都内の池袋演芸場

 高校生のとき、厳しかったラグビー部をやめ、東武線で浅草へ。ふらっと入った寄席。出演者、観客双方とも一生懸命でない、程よく力の抜けたユルい空気感が肌に合った。「だんだんお客さんがノッてくる。テンションが上がってトリでは爆笑。すごいなあと」

 原点は寄席。そして今も。

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 12月25日、都内の寄席、新宿末廣亭。サンタを信じていたが「俺がジャスコで買ってくればいいんだろ」と父親が怒鳴る声を聞いた-苦い思い出話から、枕元で昔話を語る父親を子どもが諭す「桃太郎」を披露。地下鉄移動して、池袋演芸場では、吉原遊郭の花魁(おいらん)が千葉から来た嫌いな客についたウソを巡る「お見立て」。観客席に子どもを見つけ「将来は立派な花魁に」とイジった。

 両会場とも満員。古典落語を壊さない絶妙なくすぐり、滑稽な表情と動き。老若男女が腹を抱えて笑う。今月でまだ40歳。その話しっぷりは既に円熟味すら漂う。

 およそ940。昨年寄席のほか全国での独演会、ホール公演などで重ねた高座数は自己最多だ。「これ以上は物理的に無理」な領域。「最もチケットが取れない」の称号は伊達でない。江戸以来という落語ブームを先頭で引っ張る。

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 「命までとられるわけじゃあるまいし」。色紙には落語における座右の銘を書く。落語の出来や客ウケに一喜一憂しない境地。原点である寄席のユルさと共通するようだが「独演会は自分目当ての人が多く、甘えてしまう。自分のことを知らない(人がいる)寄席も同じ割合で立たないと」。原点に立つのは自分磨きでもある。

 「普段の袴」「粗忽の釘」-。得意かつ好きな滑稽噺(はなし)でも、間抜けな「与太郎」が登場する演目の面白さこそ真骨頂。「ギスギスしてない、いろんな人を許容する世界。ダメとか、頭が悪いとかで排除されない。そういうおおらかな世界は、しゃべっても、聞いても良い」。落語の魅力は人間愛だと教えてくれる。

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 今年の目標は現状維持。それも大変そうだ。来年発表される新元号の「名人」候補。

 「とんでもない。どうしようもない、箸にも棒にもかからない、穴だらけみたいな人間でいいです」

 漫画「ドラえもん」に出てくるような原っぱがあった「ほどよい田舎町」とする野田市で生まれ育った少年が超絶人気の落語家となるまでの顛末は、お後(あと)のお楽しみ。ちなみに父親が渋々買い物に行った「ジャスコ」とは現在の「イオンノア店」(野田市)。

◆人間国宝絶賛、21人抜きで真打

 春風亭 一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ=本名川上隼一(かわかみ・としかず)) 1978年1月28日、野田市生まれの39歳。同市立中央小、第二中から埼玉県立春日部高校に進む。ラグビー部を退部後、寄席などへ通うようになり落語研究部を再興。1浪して日本大学芸術学部に入学し落語研究会では故古今亭右朝の指導を受ける。2001年3月同大を卒業し、5月春風亭一朝に入門。同7月前座名「朝左久」で初高座。04年11月二ツ目昇進、「一之輔」に。10年NHK新人演芸大賞受賞。古典落語の人情噺から滑稽噺まで現代のテイストを取り入れる絶妙なセンスに、人間国宝の柳家小三治も「久々の本物」と絶賛した。12年3月34歳のとき異例の21人抜きで単独の真打昇進を果たす。出囃子「さつまさ」。「初天神」「粗忽の釘」「笠碁」「欠伸指南」など滑稽噺を得意とする。

 忙しい高座の傍ら、テレビ・ラジオ出演、雑誌へのコラム連載、ラップデュオのプロデュースなど活動の幅を広げている。

 趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。大学の先輩で同い年の妻との間に2男1女。血液型A型。(落語協会ホームページなどから)