お父さんの子育て スズメダイ 【海の紳士録】

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 スズメダイは全長12センチ程度の小型種で、体色は暗灰色の地味な魚である。本種は温帯性で、房総半島沿岸では浅い岩礁域でふつうに見られる。千 葉県では食用魚として店頭に並ぶことはほとんどないが、福岡では塩をまぶして干したものを焼いて食べる「あぶってかも」が有名である。

 スズメダイの産卵は、夏を中心に行われる。ふだんは中層で群がりを形成してプランクトンを食べているが、産卵前になるとオスは海底の岩場になわば りを形成し、岩の表面をきれいにして産卵場所を準備する。準備が整うと、オスは近くを通りかかるメスに次々と突進し、自分のなわばりの中へ誘おうとする。 これはスズメダイ科の魚でよく見られる「シグナルジャンプ」という求愛行動である。

 求愛が成功するとメスはオスのなわばりに入り、オスが用意した岩の表面に粘着性のある卵を一つ一つ産んでいく。すると、オスはメスが産んだばかり の卵に精子をかけて受精させていく。このような産卵と放精が交互に繰り返され、長いときには1時間以上続けられる。メスは産卵を終えるとオスのなわばりか ら立ち去るが、オスは再び別のメスに求愛して卵を産ませる。

 こうして複数のメスが産んだ卵すべてを、オスはヒレで卵に水をおくったり卵へ近づく魚を追い払い、ふ化するまでの数日間ひとりで子育てを行う。メスは子育てを手伝うことはなく、中層へ戻ってエサを食べ、次の産卵に備えるのである。

 オスだけによる子育ては、海産魚ではごく一般的である。(千葉県立中央博物館分館海の博物館 川瀬裕司)