大きな音を出す小さなエビ マダラテッポウエビ 【海の紳士録】

  • LINEで送る

 浅海や汽水域に生息する小型のエビ類の中に、テッポウエビ科というグループがある。南房総の潮だまりで見られるこの仲間には、左右で長さや形の異なる第1ハサミ脚のうちの太くてまるみを帯びた方に特殊な構造を持ち、その名のとおり、ハサミを大きく開いた状態からこれをすばやく閉じる際に威嚇のための大きな音を出すことができる種類が分布している。

 潮だまりに暮らすテッポウエビの仲間は、石と石の隙間などを素早くクネクネと動き回っている。そのため、真剣に探さないとなかなか姿を目にすることはできないが、他の生き物を探すために石をめくっていると「パチン、パチン」とこれらのエビの鳴らす音が聞こえてくる。ただし、磯で生き物を探すことに熱中している人にはこの音すら耳に入ってこないようである。

 私が行う観察会では、このようなエビが採れたら必ずプラスチックの容器など、音が響きやすいものに入れてエビを少し脅かし、音を聞いてもらうようにしている。一度耳にしてしまえば、テッポウエビ類の出す音を聞き分けるのは容易なので、姿は見えずともすぐそばの石の下にこれらのエビがいることの見当がつく。わずか3~4センチほどの小さなエビが出しているとは思えないほどの音なので、ぜひ一度ご拝聴いただきたい。

 勝浦市にある海の博物館前の磯では、マダラテッポウエビという種類が音を出すテッポウエビの仲間としては最も普通に見られる。スジエビやモエビの仲間など、磯で見られる他のエビとは異なり、眼が頭胸甲に埋没していることや、全体的にぼんやりとした緑褐色や黄褐色で目立った斑紋がないのが特徴で、識別しやすいエビである。(千葉県立中央博物館分館海の博物館 奥野淳兒)