巻貝でも二枚貝でもない貝 ヒザラガイ 【海の紳士録】

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 磯で、「あの化石みたいなのは何ですか?」と質問される事がある。指し示された岩の上を見てみると、5センチ程の小判型の生きものがくっついている。8枚の板状の殻が中央に並び、その周囲は粒々している。「これはヒザラガイという貝のなかまですよ」と答えると、「はあ」と腑に落ちないような返事。確かに、普通の巻貝とは様子が違っている。岩にしっかり張り付いているので難しいのだが、剥がして裏側を見てみると、アワビなどと似たような貝らしい足が現れ、なるほど貝のなかまだと納得してもらえる。

 剥がされたヒザラガイはダンゴムシのように丸まってくる。その様が膝のようだということで「ヒザラ(膝皿)ガイ」の名がついたらしい。「ジイガセ(爺背)」という別名もある。食用にされることもあるが、固くて食べにくいようだ。

 貝類は、巻貝のなかまや二枚貝のなかまなど幾つかのグループに分けられる。ヒザラガイは多板類という独自のグループに属していて、外観だけでなく体内部のつくりにも違いがある。多板類は日本で100種類ほど知られていて、博物館前の磯でも、容易に数種類のヒザラガイのなかまを観察できる。

 日中は岩のくぼみなどでじっとしていて、活動するのは夜である。移動しながら、岩の表面の微小な藻類を、歯舌(しぜつ)というヤスリのような摂餌器官で削り取って食べる。ヒザラガイの歯舌には磁鉄鋼が含まれていて、磁性を持っているのだが、何故なのかは分かっていない。(千葉県立中央博物館分館海の博物館 村田明久)