御木平輔のミュージカルランド

■プロフィール
 御木平輔(みき・へいすけ) 音楽専門誌「ミュージックフォーラム」編集代表。主な著書は『ミュージカル手帳』(心交社)、「宝塚歌劇名作・傑作全演目事典平成編(講談社)、「新ミュージカル手帳」(心交社)、「ひばり模様」(七賢出版)など多数。南房総市千倉町のかやぶき屋根の家に住んでいる。


「ジャージー」構成に妙 ドラァグクイーン2作健闘 目立つ他ジャンル原作もの 御木平輔 ミュージカル特集

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「ジャージー・ボーイズ」の中川晃教
「キンキーブーツ」(撮影・引地信彦)

 冬枯れの中、春を告げる水仙や蝋梅(ろうばい)が咲き始めた。今年のミュージカル界は漫画やアニメ、ゲームや映画などを素材にした作品が大半を占めた。年々、【オリジナル脚本】が減少する中、「ジャージー・ボーイズ」と、宝塚宙組「Shakespeare~空に満つるは、尽きせぬ言の葉~」のオリジナル脚本の舞台が目を引いた。

 前者は2006年に米国トニー賞を受賞し日本初上陸。♪『シェリー』などで一世を風靡(ふうび)した4人組「ザ・フォー・シーズンズ」の半生を描いた傑作だ。グループ名にちなみ春夏秋冬の構成で、4人が順々に語り手を務めるのがミソ。栄光よりも挫折や裏切りに焦点を当てたのが秀逸。日本版は転換と映像を駆使し、テンポと臨場感に満ちた舞台を構築した。

 後者は今年没後400年のシェイクスピアの数奇な人生を、史実と戯曲を程よくブレンドした構成力が光った。文豪と妻の実人生の恋を「ロミオとジュリエット」に重ねた開幕、夫婦愛をうたった「冬物語」で閉じる巧みな脚本が泣き笑いあふれる舞台を支えた。

 【映画】が原作でドラァグクイーン(女装芸人)が登場する「キンキーブーツ」と「プリシラ」の日本初演も好舞台。「キンキー~」は13年トニー賞受賞作。経営難の靴工場を継いだ跡取り息子がドラァグクイーンと出会い、工場の再建を目指す。普遍性を備えたシンディ・ローパーの曲が素晴らしい。

 一方の「プリシラ」はオーストラリア産のミュージカルで、性的少数者であるドラァグクイーン3人組の珍道中を描いた爆笑もの。シリアスな題材を派手なディスコサウンドで包んだ作品で、宮本亜門の演出はテーマの「受容」を舞台に刻印。

 宝塚雪組「るろうに剣心」をはじめ、【漫画】が原作のミュージカルが多かったのも今年の特徴。8月に東京で初演された「王家の紋章」は来年の再演が決定し、「わたしは真悟」の東京公演は年明け早々だ。そんな中で日本一の少女漫画を舞台化した「花より男子」(原作=神尾葉子)は緩急に富んだ舞台が小気味よかった。スマホなどを使わずに男女の恋心を描き、失われつつある≪もどかしさ≫を浮き彫りにし新鮮。

 【ゲーム&映画】が素材の「バイオハザード」は2幕目が少々説明的だがホラーミュージカルの実験作として注目。【小説&映画】が素材となったのが「グランドホテル」(1989年にトニー賞受賞)。そのロンドン版の日本初演は、結末が異なるWキャストがキモで、中川晃教率いるチームでは小説や映画にない結末に驚いた。また【小説&アニメ】を題材にしたディズニーミュージカル「ノートルダムの鐘」(原作=ヴィクトル・ユゴー)は、脚本が主人公の鐘突き男より聖職者に傾いたきらいがあった。フランス産ミュージカル「1789」はこれまでのフレンチ版や宝塚版より仏革命下の群像劇に焦点が絞られ印象的。新潮流のノンストップロックミュージカル「マーダー・バラッド」、この手の観客参加型が日本でも増えることを感じさせる舞台だった。(ミュージカルウオッチャー)

◆注目した演出家

 今年亡くなった演出家・蜷川幸雄の秘蔵っ子の藤田俊太郎(「ジャージー・ボーイズ」)はシアタークリエという中劇場(ニューヨーク版は大劇場)を駆使。特設の回り舞台で転換をスムーズにし、映像を加えて立体感を生み出し、ドラマを深くした。宝塚の生田大和(「Shakespeare」)は沙翁(シェイクスピア)を主人公にした視点がユニークだった。上村聡史(「マーダー・バラッド」)はミュージカル初挑戦で実績を残した。

◆注目した俳優

 中川晃教は「ジャージー・ボーイズ」で高音、「マーダー・バラッド」で低音、「グランドホテル」で役者ぶりを魅せた。小池徹平は「キンキーブーツ」、山崎育三郎は「プリシラ」でナチュラルな演技を、三浦春馬は「キンキー~」のドラァグクイーンで新境地を開拓。「グランドホテル」の成河(そんは)、「ジャージー~」「ノートルダムの鐘」の海宝直人、「1789」「キンキー~」のソニンも好印象だった。

◆御木平輔さんが選ぶ今年のベスト10

1位 ジャージー・ボーイズ 演出=藤田俊太郎 音楽=ボブ・ゴーディオ 詞=ボブ・クルー 中川晃教 藤岡正明 中河内雅貴 海宝直人 矢崎広

2位 キンキーブーツ(日本版) 演出・振付=ジェリー・ミッチェル 音楽・詞=シンディ・ローパー 小池徹平 三浦春馬 ソニン 玉置成実 勝矢

3位 Shakespeare 作・演出=生田大和 作曲・編曲=太田健 装置=二村周作 朝夏まなと 実咲凜音 真風涼帆 美穂圭子

4位 プリシラ 演出=宮本亜門 美術=松井るみ 山崎育三郎 ユナク 古屋敬多 陣内孝則

5位 花より男子 演出=鈴木裕美 脚本=青木豪 音楽=本間昭光 加藤梨里香 松下優也 白洲迅 真剣佑 上山竜治

6位 グランドホテル 演出=トム・サザーランド 振付=リー・プラウド 中川晃教 成河 安寿ミラ 草刈民代

7位 マーダー・バラッド 演出=上村聡史 上演台本・訳詞=森雪之丞 中川晃教 平野綾 橋本さとし 濱田めぐみ

8位 ノートルダムの鐘 作曲=アラン・メンケン 作詞=スティーヴン・シュワルツ 海宝直人 飯田達郎 芝清道 岡村美南 清水大星

9位 1789 潤色・演出=小池修一郎 作=ドーヴ・アチア/フランソワ・シュケ 小池徹平 加藤和樹 神田沙也加 夢咲ねね

10位 バイオハザード 脚本・演出=G2 作曲=和田俊輔 美術=堀尾幸男 柚希礼音 渡辺大輔 海宝直人 横田栄司