今年の夏、各地で夏山遭難事故が多発した。奥秩父の沢で遭難救助活動中の埼玉県防災ヘリが墜落し、機長ら5人と遭難者の女性が死亡。防災ヘリ墜落現場を取材していたテレビ局の記者とカメラマンも死亡した。北アルプス剣岳では富山県警ヘリが男女8人を救助した。
北海道・日高山系の沢では東京理科大のワンダーフォーゲル部員4人が野営中に鉄砲水で流され、このうち千葉県内の18歳、20歳、21歳の若い3人が増水した激流に命を落とした遭難事故は記憶に新しい。濁流のなかで、いままさに生死の分かれ目に至って若者たちの脳裏に浮かんだのは大好きな山か、それとも親のやさしい顔だっただろうかと思うとき、底知れぬ悲しみを覚える。関係者の無念や悲しみは計り知れないだろう。
警察庁によると、昨年の山岳遭難は件数、遭難者、死者・行方不明者数ともに過去最高だった。北海道のトムラウシ山での大量遭難があったとはいえ、遭難者数が前年比152人増の208人、死者・行方不明者は36人増の317人に上った。
本欄は8月2日付で「千葉の山でも遭難事故」と、夏山シーズンの事故防止を訴えた。それだけに残念でたまらない。
「そんなに危ない山には行くな」との声もある。とはいえことさら萎縮(いしゅく)する必要はない。登山は危険が伴うものなのだ。「中高年登山ブーム」の流れは社会現象として定着し、今また、山に登る若い女性が増え「山ガール」という言葉も生まれた。山では素晴らしい自然や達成感を楽しむことができる。
肝心なことは、突然の雨や吹雪といった天候の急変や落石など、予想もしない危機に陥ったときの対処法だろう。「山での実力」とは自分や仲間に襲い掛かる危機的状況においてこそ、初めてその真価が問われる。
トムラウシ山の遭難で、事故調査特別委員会の座長を務めた日本山岳会の節田重節さん=船橋市田喜野井=は「われわれ登山者は自然の前では、ほんとうに小さな存在でしかないことを思い知らされた。いろいろな意味において『山は謙虚さを学ぶ学校』である」と話す。
新人が入部しても指導者がいない。大学山岳部のともしびが消えかけている。だからこそ、20、30歳代の若いリーダー育成が急務だろう。