本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「対峙」 『子鹿物語』


 信号で車を停めた時、窓越しに蝉の姿が見えた。蝉は蜘蛛の巣に引っ掛かってもがいていた。女郎蜘蛛がすばやく糸を操る。毒液を使ったのだろうか、しばらくすると蝉は動かなくなった。信号が変わったので、私は車を発進させた。蝉の末路は見届けなかったが、その一瞬の光景が残像になって揺れた。食うか食われるか。生きるか死ぬか。そんなことが世界のあちこちで起きている。失われた小さな命をいちいち悼んでいたら身が持たない。自分の手を汚さないだけで、私たちは生きていくためにどれほどの命をこの体に呑み込んでいることだろう。

 過日『ブタがいた教室』の上映会に出かけた。子どもたちが豚を飼育して最後は殺して食べる話だと聞き、結末に納得できるかどうか、野次馬根性丸出しで観た。若い熱血教師が豚を教室に連れ込み、六年生の子どもたちと飼育に取り組む。そこまでは楽しく違和感なく見られたが、卒業間近に豚の処分を話し合う子どもたちの姿を見て、ふと疑問が芽生えた。食べるために育てたのだから、肉にして食べてやるのが責任の全うだと考える子がいれば、ここまで世話をした豚を殺すのはかわいそうだと反対する子がいる。どちらの子も、真剣だった。Pちゃんと名前まで付けてかわいがった豚だ。簡単に殺して食べてしまえるはずはない。Pちゃんは、結局、食肉センターへと送られていった。一匹の豚の命と子どもたちの心を、教師が弄んだことになるのではないか、そんな思いが最後まで拭いきれなかった。だが、そこまでしなければ「生き死に」を体験できない現代社会の偏りを垣間見る思いもした。そうか、ならば、この映画は「結論」ではなく「問題提起」なのだ。これは命との向き合い方を観客に問う映画なのだと気づき、やっと心が落ち着いた。

 『子鹿物語』の場合は、もっと過酷な結末を迎える。舞台は南北戦争後のアメリカで、主人公は開拓民の少年ジョディ。父親が毒蛇に腕を噛まれ、毒を吸い出す為に、牝鹿を殺して肝臓を取り出す。残された子鹿を、ジョディが飼うことになる。フラッグと名付けた子鹿は、やがてジョディの大事な存在になる。だがフラッグは、せっかく植えたタバコやトウモロコシの苗を食べてしまう。貧しい開拓民にとって、作物の被害は死活問題だ。フラッグを殺すように命じられるジョディ。しかし、彼にはできない。母親が銃でフラッグを撃つが、弾がそれて致命傷には至らない。苦しむフラッグを見かねたジョディは、自分の手で決着を付ける……。人生は矛盾だらけだ。純粋なだけでは生きていけない。生き抜く力は、その矛盾と向き合い、乗り越えることで身に付くのかもしれない。フラッグとの別れは、ジョディにとって少年時代との決別でもあった。...

【メモ】「子鹿物語」・ローリングス・偕成社文庫

県内ニュースの記事全文は紙面をご覧ください。 千葉日報を購読する

千葉日報ご購読お申し込み

千葉県産健康食品

千葉日報の本

千葉日報社から

当ホームページの記事、画像などの無断転載を禁じます。 Copyright (c) CHIBA NIPPO CO.,LTD. All rights reserved.