
■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。
アナログ放送が廃止され、2011年から地上デジタル放送が始まる。地デジになったら、もうテレビは止めにしようか、と家族と話していた矢先、テレビが突然映らなくなった。「必要ないのなら、少し早いですが、いとまをいただきます」と、テレビの方から引導を渡されてしまった。物にも心がある、と思えるような絶妙なタイミングの故障だった。その引き際の潔さに促され、テレビ無しの暮らしをする決断をした。進歩し続ける世の中の流れに逆らって一歩後退するのは勇気が要ったが、リサイクル業者に壊れたテレビを引き取ってもらい、受信料の解約手続きをした。家族がひとり消えたような喪失感と共に、思いがけない開放感も味わっている。
テレビがあった場所がぽかんと空いてしまったので、そこにラジオを据えた。久しく聴くことのなかったラジオのスイッチを入れる。ジージーと波長を探る音がした後で、明瞭な音声が耳に届いた。
秋の夜長だ。朗読劇、落語、民謡などに、しみじみと耳を傾ける。一歩後退どころか、ずいぶん時間を逆戻りしたような錯覚に陥った。どんなににぎやかな音が流れても、なぜかラジオのまわりは静かである。政治討論、贔屓の野球チームの苦戦に、いつもテレビの画面に向かって怒ったりうなったりしていた夫も、ラジオだとその気が起きないらしい。相手の姿が見えるか見えないかの違いではなく、伝え方そのものがテレビとラジオでは根本的に違うからだろうか。テレビはかなり自己主張する道具なのだと、今さらながら気がついた。
テレビ放送が始まったのは昭和28年。私は33年の生まれなので、ほぼテレビと共に育ってきたことになる。学生時代の寮生活の2年を除き、それ以外はずっとテレビのある暮らしだった。今、故人を偲ぶように、テレビによって得たもの、失ったものを思い返している。
新美南吉の「おじいさんのランプ」には、古いものが新しいものに取って代わられる時の情景が描かれている。日露戦争の時分、文明開化から遅れた小さな村に住む少年、巳之助が、街で初めてランプを見た。その明るさに驚き、自分の村にもこういう明るいものを普及させたいと決心し、彼はランプ屋になる。暗かった村にだんだん灯りが灯ってゆく様を見て、巳之助は自分が文明開化の火を灯してまわっているのだと嬉しくなる。だが、やがて電燈の時代がやって来た。ランプの時は革新的だった巳之助も、商売敵の電燈を享受できずにいる。とうとう、電燈を引く決断をした区長の家に火を点けようとまで思いつめ...。
【メモ】『おじいさんのランプ』新美南吉/岩波書店
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