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本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「水の声」 『たのしい川べ』


イラスト 藤原あずみ

 時々、水を眺めたくなる。人の体のほぼ七十%は水分だと言うから、体内の水が外にある水を恋い慕うのだろうか。ひとりで、或いは友人と、沼を見に行く。車で十五分ほど走ると印旛沼に出る。小高い所から沼を眺めると、茂った葦のむこう、湖面が光りながら招いてくる。水鳥がさざ波を打って羽ばたく。釣り舟が水鏡を割って進んでくる。水を見て、今度は空を見る。空もまた青い沼のようだ。空と沼とを交互に眺める。すると、両者は溶け合い、その狭間で心がくるりとひっくり返る。沼の底から水面を仰ぐような。高い空から俯瞰するような。どちらともつかない宙ぶらりんな場所に心が浮かぶ時、耳に静かな「水の声」が聞える。

 干拓によって形が変わっても、カミツキガメが増えても、トリハロメタンの量が増しても……すべてを受け止め沼は静かだ。だが、人の横暴がどうにも我慢できなくなった時、伝説のように龍に姿を変え、沼は大暴れするだろう。夕陽に赤く照り返る湖面は、すでに龍の背のようだ。香取の海と呼ばれた時代から、もしかしたら「龍」はずっと私たちを眺めているのかもしれない。

 私はせせらぎの音を聞いて育った。実家の脇を流れる小川は、洗濯物をすすいだり、野菜を洗ったりする大事な場所だった。水は時々、贈り物も運んできた。栃の実や胡桃、川底を擦りながら流れて丸くなった石やガラスの破片。透き通る水に手を突っ込み、くるくる踊りながら逃げる木の実を追いかけ、膝小僧までずぶぬれになった。川の脇には潅木が茂り、枝に腰掛けて水に足を浸すこともできた。まだ小さかった頃、弟がその川で溺れそうになった。流されそうになる弟の手を必死で引っ張っていたら、隣の人が飛んで来て助けてくれた。小川は今も実家の横を流れている。だが、U字溝を埋められた流れからは、もう、せせらぎの声は聞こえない。

 グレーアムの『たのしい川べ』は、随所から川の音が聞こえてくる本だ。草や土の匂いも立ちのぼる。モグラや川ネズミ、アナグマにヒキガエルと言った登場人物たちもさることながら、そこに描かれた川の描写に心躍る。「川はおいかけたり、くすくす笑ったり、ゴブリ、音をたてて、なにかをつかむかとおもえば、声高く笑ってそれを手ばなし、またすぐほかのあそび相手にとびかかっていったりしました……」そう、川は生きている。ゴブリと不意に音を立てたり、勢いよく走り出すかと思えば鼻歌を歌い、笑うことさえある。・・・

 【メモ】「たのしい川べ」ケネス・グレーアム作・岩波書店

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