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本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「無窮」 『ユンボギの日記』


 空に向かってムクゲの花が開いている。白に桃色、八重に一重。夏から秋まで次々咲き続けるから、韓国ではこの花を無窮花「ムグンファ」と呼ぶ。ムクゲはムグンファが訛ったものだろうか。無窮--良いものなら無窮なれ。だが、それが良くないものなら、断ち切っていかねばならない。

 家族で韓国を訪ねたのも、無窮花の咲く頃だった。安東(アンドン)市近郊の河回(ハフェ)村で、重要無形文化財の仮面劇を見るのが主目的だった。だが、通訳の権(クォン)さんと言葉を交わすうち、隣国を再発見する旅にもなった。

 軍事境界線の光景は、とりわけ強く心に焼きついた。鉄条網の前には、若い兵士が鉄砲を肩に軍服を着て立っていた。その顔つきは厳しく大人びていて、同じ年頃の息子が幼く見えたほどだ。息子だけではない、日本の若者たちの顔を思い浮かべ、死と向き合うことで、人の顔はこんなにも違ってくるのかと思った。イムジン河は滔々と流れ、対岸に北朝鮮の家々が見えた。すぐそこに見えるのに行けない場所。簡単には越せない境界線。生き別れになった人々の涙が河になったかと思うほど、やるせない眺めだった。

 権さんもタクシーの運転手さんも、河回村を訪れるのも初めてなら、仮面劇も初めてとのこと、道中、期待は高まった。仮面劇は、村の中心にある円形広場で演じられた。最初はいちいち通訳してくれた権さんだが、そのうち通訳を忘れて夢中で見ている。だが、私たちもその方がよかった。言葉はわからなくても、内容はわかったからだ。牛飼いの男が、牛の睾丸を切り落とし、「精がつくから誰か買わんかね」と観客に向かって問いかける場面があった。「オルマエヨ(いくらなの?)」とすかさず尋ね返したのが小さな男の子だったので、観客は大爆笑だった。河回村には昔の家並みがそのまま残っている。黄色い土塀。干した赤唐辛子。キムチ壷。畑のまくわ瓜。餌を探す放し飼いの鶏。まるで、韓国の昔話の中に迷い込んだようだった。

 旅の終わり、家族のように親しくなった権さんに、思い切って尋ねてみた。「年配者には日本人を恨んでいる人が多いと聞くけど、あなたはどう?」「好きではないわ。仕事だからこうして付き合っているけれど」。あまりにきっぱりした答えで、かえってわだかまりが残らなかった。日本では伊藤博文の暗殺者でしかない安重根が、韓国では銅像が立つほどの英雄だ。そして日本の終戦記念日は、韓国の独立記念日にあたる。短い旅の中で、境界線とは人の心の中に作られるものなのだとはっきりと悟った。河は渡れるし、山も踏み越えて行ける。人の心に作られた境界線は、見えない分、相当に手ごわい。...

【メモ】「ユンボギの日記」李潤福・太平出版社


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