腹話術の会のお誘いをいただいた。雨模様の寒い日だったが「笑って笑って豊かな人生を」のタイトルにひかれ、腹話術師、しろたにまもるさんの公演を聴きに行ってきた。
しろたにさんは、国内だけでなく海外でも活躍するベテラン腹話術師だ。相棒の人形、ゴローちゃんと共に、人々に笑いを届けて回っている。一人二役なのだから当たり前なのだが、ゴローちゃんとしろたにさんの、呼吸はぴったり。絶妙な掛け合いに、ゴローちゃんが人形だということをすっかり忘れてしまうほどだった。目隠しをされたゴローちゃんが、箱から取り出した物が何かを当てる芸があった。実際には、しろたにさんが見ているのだから、馬鹿馬鹿しいほど種も仕掛けもないのだが、お客さんは拍手喝采だった。しろたにさんも人形のゴローちゃんも、見事に道化に徹していた。聴き手をいい気持ちにさせ、心をほぐしてくれた。正直言うと、腹話術ってそんなに面白いのかなと半信半疑で出かけたのだ。ところがたちまちひき込まれ、タイトルの通りに、笑って笑って豊かな時間を過ごしてきた。しろたにさんは、被災地の人々や自閉症の子どもたちの訪問ボランティアもされている。「ゴローちゃんのおかげで三ケ月ぶりに笑ったよ」と被災地の方からお礼を言われたこと。他人とコミュニケーションが取れずいつもマスクを付けている自閉症の女の子が、マスクをはずしてゴローちゃんと話をしたこと……。いくつかのエピソードを聞いているうちに、腹話術は信頼という土台の上に成り立つ話芸なのだと気がついた。見る人と演じる人の「信じる心」が人形の魂になるのだと。
緊張がほどけた時に人は笑う。緊張がほどけるには相手を信じる心が必要だ。その逆もありで、笑うから緊張がゆるむ。そして緊張がゆるんだ時、人は人を信じる……笑いとは、信じ合う為の手段だともいえる。そしてまた、困難を乗り越える為の、知恵だともいえるだろう。・・・
【メモ】「とんちのどんでん小僧」横笛太郎/太平出版社
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