横浜の「こどもの国」から、イラストを頼まれた。このイラストは、一月に行う、ジャンボ双六遊びの看板用だ。「こどもの国」へ取材に出かけたのは、蝉時雨が響く八月半ばの事だった。あれから四ケ月。緑の王国は落葉の色に染まり、栗の実やトチの実もはじけて地面に落ちているだろう。広葉樹が多い森は、それぞれの木がそれぞれの色に染まり、いかにも豊かな風情で、晩秋から初冬へと衣装替えを始めた頃に違いない。
「こどもの国」がある場所は、戦時中、旧・日本軍の弾薬製造貯蔵施設だったが、一九六五年に児童厚生施設として開園した。園内には現在も、いくつかの弾薬庫跡が残っている。
取材の日、長津田の駅から、初めて「こどもの国線」に乗った。昔は弾薬の輸送用だった線路が、今はたくさんの子どもたちを乗せて遊園地に向かっている。そう思うと、子どもたちの笑顔がことさらまぶしかった。
駅を出て、敷地に立った。あのたくさんの子どもたちはどこへ消えたかと思うほど、ゆったりとした空間が広がっている。職員の方に案内してもらい、双六で使われるルートをぐるっと一巡りした。
二十一枚の看板用イラストが仕上がったのは、つい先日のこと。ところが、そのうちの半分にクレームが付いた。絵の中に犬や猫を登場させたのが原因だ。「こどもの国」はペット禁止であり、犬猫の絵はペット可の誤解を招くと言う配慮からだった。犬猫を野生動物に描き直した。「いつか、ペットも可になると良いですね」と告げると、職員の方は戸惑われた。「ペットも入れるようになればいいのですが、犬疥癬にやられて全身をかきむしって死んでいる狸を、毎年土に埋めるんです……。野生動物は病院には行けませんから……」その言葉にはっとした。
里に下りて、射殺された熊や猪。捕獲された猿。車に轢かれた狸や兎やイタチ。秋から冬にかけて、野生動物による被害が、頻繁にニュースになる。「被害」と報じられるが、果たして彼らに罪があるのだろうか。動物は人に悪さしようと里にやって来るのではない。飢えてやむなく里に下るのだ。広葉樹の森は切り拓かれる一方だし、杉やヒノキの人工樹林は、彼らを養ってはくれない……。
伊那谷に生まれた作家、椋鳩十が、動物を主人公に温かい目線で物語を書いている。自然の豊かさ、厳しさを知り尽くした作家の目は甘さがなく、人と動物の生きる境界線がきちんと書かれている。それでいて、動物たちはまるで人のように感情豊かだ。人のようでありながら、人よりさらに崇高な魂を持つ存在として捉えられている。
【メモ】「しもばしら」(椋鳩十全集より)椋鳩十・ボプラ社
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