
■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。
命が巡り来るのが嬉しい春だ。そこにもここにも木の芽、草の芽がある。「ああ、また会えたね」と喜び合う。そして、その瑞々しい命を体にとり込んでしまうのもまた、春なのだ。庭の片隅では、フキノトウも顔を出した。毎年、酢味噌和えにするのだが、今年はたったの三つ。可愛そうで、もう少しあと少しと眺めていたら、いつの間にか花が咲いてしまった。
先日は、近所の方からアシタバをいただいた。三宅島で採れたものだと聞いて、そのきれいな緑がことさらまぶしかった。早速茹でて、お浸しと和え物で香りと歯ごたえを愉しんだ。癖のある香りは、春そのもの、草木の生命そのものという感じだった。
春の野草には、「食べる」より「向き合う」という言葉が似合う。採りすぎると毒になりかねないアクの強い相手と向き合って、その苦さと勝負をする気分だ。
蓬の時期になると、祖母はいつも草団子を作っていた。祖父は山から蕨やタラの芽を採ってきた。いそいそと準備をしていた二人の姿を思い出すと、食べることよりも、摘み草や山歩きがしたかったのだなと思う。「春の野に菫摘みにと来し我ぞ野をなつかしみ一夜寝にける」の、あの心境だろう。春の野は、身も心も弾む。
小学生の時、近くの川に写生遠足に行った。五月半ばで、田んぼには水が張られ、その水鏡には雪を残した山と青い空が映っていた。耕運機のエンジンがのどかにうなり、陽炎が立っていた。川の土手にはニセアカシアの木が並んでいて、甘い香りが降っていた。先生は「アカシアの匂いを描こう」と言った。大人なら戸惑ってしまうところだが、躊躇する者は誰もおらず、絵の具を絵筆で飛ばしてみたり、水でぼかしてみたり、それぞれ熱中して匂いを描いた。花を拾って、紙にこすり付けている男の子もいた。昼過ぎまで外で過ごし、もちろん他の勉強はなし。楽しい春の一日だった。何より忘れられないのは、携帯コンロでニセアカシアの天ぷらを作ったこと。水と小麦粉をまぶし、さっと揚げたアカシアの花は、口の中でさっくりとして、ほのかに甘い香りがした。何度かアカシアの天ぷらを作ってみるが、未だにあの時の味には辿り着けない。たぶん花の味というよりも、思い出の味だからだろう。
『ふきまんぶく』という春の絵本がある。ふきまんぶくとは、フキノトウのことだ。主人公のふきちゃんは、向かいの山のひとところに光るものを見つけ、探しに行く。そこに光っていたのはフキの葉っぱの夜露だった。ふきちゃんはフキたちと一晩を過ごし、土の中にもぐって寝てしまう。「さあ、ふきまんぶくは春までおやすみ」と葉っぱたちに見守られながら。翌朝、お父さんが、フキの葉の下で眠っているふきちゃんを見つける。そして、春。山のひとところに「あったかそうな場所」を見つけたふきちゃん。行ってみると、そこには、たくさんのフキノトウが頭を出していた。...
【メモ】「ふきまんぶく」田島征三・偕成社
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