地域の人が講師になって、小学校でサタデースクールが開かれている。今年度から私も、「物語の朗読」で参加することになった。
小学校時代、担任の先生が、毎日、給食の後で本を読んでくれた。「寝たい人は寝ていていいよ」とおっしゃったので、机に顔を伏せて朗読を聞いた。昼下がりの空気はのどかで、本当に寝入ってしまいそうだったが、たいていは眠気よりも物語の魅力の方がまさっていた。教室は無人島になったり大海原になったり、どこか知らない国の街や村になった。読みながら先生は本から目を上げ、しばしば私たちの様子を眺めた。人に読んでもらうと、自分で読んだことがある物語も、また別の響きを持って心にひたひたと満ちて来る。その波に身を任せるのが心地よかった。だが本を閉じたとたん、空想の風船玉もパチンとはじけてしまう。その瞬間を先のばしにしようと、「もう少し」「あと三行だけ」などとみんなでせがんだ。
読んでもらった物語の詳細は忘れても、不思議なことに、朗読の声とその場の雰囲気はいつまでも記憶に残っている。親しい大人から本を読んでもらう体験は、物語体験以上の大切な何かを同時に受け取めているのかもしれない。
サタデースクールでは、長い物語を少しずつ読み継いでいこうと考えていた。だが、小学一年生から中学一年生までと、参加者の年齢差がありすぎたので、グリム童話を読むことにした。やって来た小学一年生の幼い顔を見て、飽きずに聞けるのかと弱気になったが、朗読が始まったとたん、心配は吹っ飛んだ。ゆっくり読んで二十分ほどの話だった。暗い森の中で起きる不思議な出来事に、みんな真剣に耳を傾けていた。昔話の力を改めて実感した。
グリム童話は、ご存知、ドイツのグリム兄弟が、民間伝承童話を集大成したものだ。歳月の波に洗われ、人の口から口へと伝えられるうちに昔話は少しずつ変化をとげた。テンポがよくなり、ことばの言い回しがシンプルになった。ストーリーは骨太で、同じ道すじを三度辿りつつ、三度目でどんでん返しが起きる話が多い。どれも、人生で起きる出来事を鋭く示唆しているようで面白い。子どもたちが思わず「それ、ほんとのこと?」と尋ねたり、狼や魔女を本気で怖がったりするのは、そこに含まれている真実を見抜いているからだろう。...
【メモ】「グリム童話集」グリム・矢崎源九郎訳・偕成社