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本の贈り物

■プロフィール
藤原あずみ イラストレーター。1958年長野県安曇野市生まれ。佐倉市在住。主な作品は「野あそびいっぱい 植物編」(萌文社、中山康夫著)、「お話とあそぼう」(一声社、末吉正子著)など。「第18回小さな童話大賞 山本容子賞」、「第9回ミツバチ絵本コンクール佳作」、「第48回千葉文学賞」など受賞。


「情愛」 『きつねにょうぼう』


 ぽつぽつ降っていた雨は止んだが、空は灰色で冷たい風が吹いていた。「そら、もう冬が来たんだぞ」とささやきながら、枯葉が足もとを転げて行く。その日は朝の読書で、小学四年生に絵本を読む日だった。本は選んであったのだが、重く暗い空を見ているうちに、子どもたちに昔話を届けたくなった。心にしみこむ情緒のある物話がいい。こんな冬の始まりの日には、そんな本こそふさわしい。そこで、「きつねにょうぼう」を読むことに決めた。日本には多くの異類婚の昔話が残っているが、「きつねにょうぼう」もその類である。

 暗い雨の晩、山の田んぼから帰る男の後ろを、ひたひたと付いてくるものがある。振り返ると、そこにいたのは若い女。女は男の家に泊めてもらい、そのまま居ついてしまう。やがて男の子が生まれ、「ててっこうじ」と名付けられた。ててっこうじが三つの春、女は機織をしながらふと外を見た。表は、椿の花盛りだった。花に見とれ、女は狐の正体を現してしまう。正体がばれ、女は山に帰っていく。その年の田植えの朝、山から歌が聞えてきた。男とててっこうじが山の田んぼに行くと、女が田植えをしていた。女はててっこうじに乳を飲ませ、黙って山に戻る。秋、男の田んぼの稲は見事に育った。だが、なぜか穂が出ない。膨れた茎をむくと、そこから白い米がざらんざらんと出て来た。男とててっこうじは、その米で楽に暮らした……。

 話も骨太なら、片山健さんの絵が力強い。暗い色使いなのに、眺めていると内側から鮮やかな色が溢れ出て来る。その色合いの繊細さ複雑さは、日本の大地と空の色だ。ぬくもりと湿り気。かつて、自然と人との間で交わされた静かな情愛の色だ。いや、かつてではない。今も、朝方や夕刻の景色にその色を認め、温かな気持ちになる事がある。

 山奥に暮らす主人公の男は、自然と共生して生きていた。男を慕って現れた狐は、自然の権化でもある。人は人、獣は獣と区別したら、このような話は生まれない。獣にも、樹や石ころにさえも魂があると信じ、畏れ敬いながらも情を交わしてきたからこそ生まれた物語だ。

 苗を植え終えた田んぼの畦で、母親がててっこうじに乳をふくませ、男が見守っている場面がある。早苗が朝風にそよぎ、水鏡には三人の姿が映っている。

 ててっこうじが乳を飲む音。母親の白く温かい胸。哀しみを堪えた男のまなざし。夜明けの空の色、湿った空気……そのすべてが、いつか見た光景のように懐かしい。田んぼは「母」。そこに、日本の原風景がある。

 【メモ】「きつねにょうぼう」長谷川摂子・再話/片山健・絵/福音館書店

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