映画「トイレット」より。(c)“トイレット”フィルムパートナーズ 配給:ショウゲート/スールキートス
その家は大黒柱を失って傾いでいた。頼りの母が亡くなり、ニート、オタク、ジコチューといった現代病にかかったカナダの3兄妹(デイヴィッド・レンドル、アレックス・ハウス、タチアナ・マズラニー)は新芽も出さず成長がストップ。「かもめ食堂」(2006年)の荻上直子監督が劇中の亡母の遺志として、彼らの家に新たな柱を立てる。ところがどっこい、よりによって柱が外見、偏屈な日本のばーちゃん(もたいまさこ)。言葉の壁?によるコミュニケーション不全で、互いに本音が聞けない。「もしや赤の他人では?」と血縁すら疑う始末。しかし、実はかわいい孫の成長を黙って見守るご神木のような存在だった。トイレは国の文化や生活を象徴し、腰掛ける人の気持ちを理解した時、兄妹は自立するのだ。前作「めがね」(07年)から3年ぶりとなる荻上監督の快心作!
ばーちゃん役としてもたいをイメージした荻上のオリジナル脚本ゆえ、これ以上の適役はない。だが、ヤマ場のひと言までセリフを与えず、監督は相当なギャンブラーだ。それでももたいはひっつめ髪の不機嫌な老顔の口を閉じ、所作(主にため息)だけで圧倒的な存在感。まァ荻上の全4作品(本作含む)に出演している性格俳優と監督は固い信頼関係で結ばれており、あうんの呼吸なのである。
撮影技法的には、もたいのシーンはワンカット長回し。ゆっくりとした静的ショットが、ばーちゃんの感情の機微を描出する。もたいは無言のまま、3兄妹が困難に直面した時、金と食事を供し、大人の規範を示す。ただし手助けは必要最小限で、ニートなどの現代病を助長する今の親の過保護ではないのだ。やがて兄妹はご神木のありがたさに気づき、長男と長女はそれぞれピアノ、エアギターのコンテストに出場、ロボット型プラモデルにしか興味がなかった次男は虚無的な人生観をあらためる。長男のピアノBGMにのせてテンポがよい。
監督は笑いの反復で成長過程を見せる。たとえば次男がネット上で3千ドルの価値を比較。序盤は値段が同じプラモとばーちゃんのDNA鑑定をてんびんに掛けていたが、終盤はため息の原因だったトイレの改修費(ウォシュレット化)に変わる。文化の違いを象徴するトイレに目が行き、言葉の通じない相手を思う気持ちが画面から伝わる。
ピアニストとして天賦の才があった長男は、パニック障害から引きこもりとなった。4年ぶりのコンテストの晴れ舞台で、緊張感から吐き気を催す。客席のばーちゃんがおもむろに腰を上げ、鼓舞するひと言を発す。それまでの長き無言劇がここで奏功するのだ。
永別の儀式シーンが巻頭・末にある。最初はカメラが兄妹の後ろから近づき、最後は遠のく。これは天に召した保護者の目線ではないか。子どもがようやく独り立ちし、先人は土に返る。自然の摂理を暗示したカット。大黒柱を失っても、成長した若木が家をしっかり支えるのである。(文化部 安原直樹)
10年日本・カナダ
脚本・監督 荻上直子
撮 影 マイケル・レブロン
衣 装 堀越絹衣
音 楽 ブードゥー・ハイウェイ
フードスタイリスト 飯島奈美
上映時間 109分
出 演 デイヴィッド・レンドル、アレックス・ハウス、タチアナ・マズラニー、もたいまさこ、サチ・パーカーほか
公 開 28日から県内のシネプレックス幕張はじめ、都内の新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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