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郷土の人の本

海の匂い染みこむ詩力 句集「風岬」(山﨑幸子著)


 春寒し波の花寄る風岬
      山﨑幸子

 山﨑幸子氏の、第二句集『風岬』が本阿弥書店から8月に刊行された。
著者の所属する「好日」主宰の長峰竹芳氏は、句集名になった冒頭の句を推し、句集の帯文に「潮の香をまとい、波音に身を委ねて育った作者にとって、海は体に染みついた暮らしの匂(にお)いであり、心の拠(よ)り所となる故郷そのものである」と主軸作家としての着実な歩みをたたえられている。

 このような著者は富津市に生まれ、現在は千葉市在住という生粋の房総人である。ことに東京湾にむかって4キロも細長く続いている富津岬といえば、江戸期に小林一茶との交流をふかめた女流俳人の織本花嬌の名が思い浮かんでくるなど、本書は房総の女性史ともいうべき風習を際だてた諧謔(かいぎゃく)性と叙情性の相まった独特な産土感のゆたかさを見せている。

つまみ食ひせり飯蛸を頭から

ふにやふにやの筋肉使ふ夏初め

深まれる春や豪華なのし袋

 一句目の、「飯蛸」を頭からつまみ食いするという姿に、思わずどきっとさせられる浜育ちならではのエロス。二句目の、使いふるされた「ふにやふにやの筋肉」にも本能がゆきわたっているうれしさが感じられる諧謔性。そして三句目の、「のし袋」の豪華さといえば「宵越しの金は持たない」と言い伝えられている、浜暮らしの人情のあふれる気前のよさでもあろうか。また、このような諧謔ぶりもさることながら、海の匂いがたっぷりと染みこんでいる詩力にみちた叙情性のゆたかな次の作品に注目させられる。

 著者は、昭和13年生まれ。「好日」同人。「好日賞」受賞など。また千葉日報社の「菜の花通信員」として目下活躍中である。(本阿弥書店・2940円)


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