風景写真の概念を一変させた前田の初期代表作(1977年刊)。それまでの風景=名所旧跡という構図を壊し、画面から一切の“説明書き”を省いた。名もなき日本の風景。大判カメラの精緻(せいち)な描写力をもって清潔かつしゃれた感覚でとらえ、日本人の眼前に編んで見せた。今ほど環境に関心がなかった時代。それは新境地だった。
出合は山岳用語で、川、谷、沢の流れや道が一つに集まる所を意味する。分厚な本の頁を繰る。河床をはう流れ、海岸を洗う千波万波、雪景と枯木など、ハッと息をのむ瞬間の出合が定着している。豊かな造形性、色彩美、端正な構図などと賛辞を呈することはできるが、最大の特色は被写体の選択眼にある。撮影作法を収めたビデオ「風景無限」(日本カメラ社)の中で、前田はこう言う。「泥臭い物を撮っても、キラッとしゃれた感覚で表現すれば、見る人が感じてくれる」。100%目線の高さで撮った作品は清潔な一幅の絵。微塵の妥協もない。その作風は丹溪(設立の会社名)調と呼ばれた。
前田は商社マンを経て、40代半ばでプロ写真家に転身。以後約30年にわたり、日本全国を東奔西走、南船北馬し、数多の写真集を出版した。とりわけ北海道・美瑛の丘の作品群は全く新しい日本の美を世間に知らしめ、美瑛ブームの火付け役になった。「出合―」は時代の先を行き過ぎたのか、商業的には成功しなかったが、6年後の大ヒット作「一木一草」(グラフィック社)の原型となった。遅咲きの大輪は風景写真ジャンルに鮮烈な足跡を残し、98年に76歳で散った。
父の撮影に中学時代から同行し、「被写体の見つけ方を体で教わった」と言う長男・晃も同じ道を歩んでいる。没後10年の今年、富士フォトサロン東京の親子2人展(7月11~17日)を皮切りに、追悼企画が展開される。(文化部 安原 直樹)
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