これほど数奇な運命をたどった写真集も珍しい。版元の倒産などで絶版という憂き目を見ながらも、斬新な写真集づくりに挑戦している青幻舎(京都市)によって今年、3度目の出版となったからだ。1996年の初版から12年。写真家の意志さえも及ばない、見えざる写真史という力によって、その存在を認められた1冊である。
この本は86~94年に撮影された全国の石灰石鉱山と石灰工場、セメント工場を収める。大判カメラがむき出しの“現場”を厳密にとらえている。重機による掘削で変容した山、生産拡大に追われ、まるで生き物のように増殖した前近代的な工場は、ただ沈黙をたたえている。それでいて、質感のリアリティーを追求した色調が加わって、見る人の眼底に焼きつく生気を放っている。
なぜか畏敬(いけい)の念を抱いていた。94年英国で開かれた鉱山シリーズの展覧会で、現地博物館のキュレーターは副題に「都市とその起源」とつけた。考えてみれば、石灰岩はセメントの原料。つまりは都市の礎を築く素材(起源)なのである。だから、コンクリートジャングルの中の生活者がその現場と都市を同じ線上の存在と見なし、心服するのか―。
畠山はこの本と写真展の活動が高く評価され、写真界の最高峰である木村伊兵衛賞を射止めた。そして被写体は次第に都市のコアへと向かう。写真家にとって都市は昔から魅力的なモチーフに違いないが、視点が重要となる。
畠山の作品集はコンクリート河岸を写した「川の連作」、東京・渋谷の地下5メートルを流れる水路を撮影した「Underground」と、都市形成の時間軸上の点を丁寧にたどってきている。そんな法則性を感じるものの、被写体探しについて「Underground」のあとがきに「石蹴(け)り」と記している。蹴った石の偶然転がるその先を、緻密(ちみつ)にとらえた作品が今後も楽しみだ。(文化部 安原 直樹)
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