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写真集の狩人

ビンランを売る壜蘭の魔女 「binran」 瀬戸 正人写真集 (リトルモア・2800円)


 怪しげで、実にエロチックである。台湾の街道沿いに並ぶガラスボックスの中で、ビンラン(檳榔)を売る若い女が柔肌をさらしている。薄着にミニスカート(中には水着も)というそそる出で立ちで高いストゥールに腰をかけ、組んだ脚のラインが美しい。暗闇に突然現れたボックスのネオンは夢の中の誘蛾灯(ゆうがとう)のよう。眩惑(げんわく)の光と“魔女”に導かれた男たちは、その罠(わな)にかかる―。

 04年、被写体との出会いは偶然だった。中国茶の取材で山間部に行った車の帰り道、ある交差点で淫靡(いんび)な光を放つ店を見つけた。中には若い女。看板からビンランの売り子―と推測できた。が、あまりの怪しいムードに「裏社会が関係?」と気おされた。でもそこはプロの写欲が勝った。以来、2年半で約100軒を撮影し、その抜粋を本書に収めた。

 女たちの趣味なのだろうか。ぬいぐるみを並べたロリータ風、満艦飾のキャバクラ風などと、内装はさまざまだ。ある女は人工光を映しマネキンのような肌質であり、別の女ははち切れんばかりの肉感で迫る。ほとんどの視線は遠く彼方をさまよって気だるい。

 ビンランの種子には覚醒作用があるという。ガラスボックスを壜(びん)に、売る女を蘭(らん)にたとえれば、この“壜蘭(びんらん)”は植物の檳榔より目が覚める。街道を飛ばす車がスピードを緩める。その先は…。本の最終作品は女ではなくネオン管の毒グモが主役になっている。張り巡らされた巣に、男という蛾はまんまと絡めとられる。とても暗示的な締めくくりだ。

 「親日家が多い台湾人はぼくたちと似た生活習慣で暮らす仲間だと思っていたが、日本とは違った文化がある」と写真家はあらためて感じた。そして異文化に触発された。巻末にある幻想的な文章も非凡な才能を発揮している。嵐の夜。熱病に浮かされたごとく足がガラスボックスに向かう。夢とうつつの狭間を視覚できる1冊だ。(文化部 安原 直樹)


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