「料亭政治」という言葉があるなら、昭和の高度成長を下支えした庶民の「スナック経済」という造語も十分成り立つ。主役はもちろんママ。本書には、演歌歌手・島倉千代子の代表曲ではないが、「人生いろいろ」あっただろう中高年のママの笑顔が並ぶ。米サブプラ問題を発端にした世界同時不況でスナック経済は厳しいが、笑顔は菩薩(ぼさつ)の慈愛をたたえている。「また頑張ればいいじゃない」。許しにも似たひと言が傷ついた男を救済する。今までも、そしてこれからもずっと―。
フリーになった山田は冒険心から、未経験の水商売に足を浸した。以来10年の歳月をかけ、全国のスナックを巡った。本書はその足跡(164店)を北海道から順に沖縄までたどっている。収録のママは実に177人にも上り、その魅力について「ママは女らしくも男らしくもあり、優しくも強くもあるキャリアウーマンだから…」と話した。山田は今もスナック勤めを続け、写欲は一向に衰えていない。
彼女たちは服装からして個性的である。小粋な着物姿あり妖艶(ようえん)なドレス姿あり…と。店内もまたママの趣味を色濃く映している。この超プライベートな密室で、高度経済成長を支えた数々の名ドラマが生まれてきた。男は仕事のぐちをこぼし、ママは膝(ひざ)をつめて小さくしかる。ひそかな会話が聞こえてくるようだ。写真家いわく「日本の文化」がまさにある。
写真家は、標準と広角レンズを備えた645判カメラ「フジGS」で手持ち撮影した。正面から小型ストロボ1灯。まばゆい光の中に女性が女性を撮る、たおやかさがあふれている。そして時折挟む空を大写しした作品がいい。スナック特有の濃密な空気から逃れ、酔いを覚ます思いがする。
本のカバーを外すと、表紙に「再会」という名の店の看板がプリントされている。男は“郷愁”に誘われる。あの懐かしいママの顔を見たくなる。本書に込めた願いはそこにある。(文化部 安原 直樹)
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