前回の書評で都築の優れた企画力をほめたが、実は取材中、関連する質問をいさめられていた。いわく「自分はメジャーなものしか取り上げていない」。補足すると、この本の若者の住まいは、外国人から「ウサギ小屋」などと揶揄(やゆ)される日本人の大多数の生活空間。つまりメジャーだ。ただプロの写真家や報道機関が怠慢から、そんな日常風景のニュース、真実のトウキョウ・スタイルを見過ごしただけだ。その意味で都築の良さは、当たり前の姿を当たり前に見せるところにある。
この件(くだり)をもう少し書かせてほしい。たとえば建築雑誌には、一流の設計士がデザインしたけんらん豪華な大豪邸がクローズアップされている。しかし、そこに住めるのはほんの一握りの富裕層だ。格差社会が進行した現在においてはなおさらである。ゆえに、この手の雑誌には「いら立ちやあせり、劣等、不安感を覚える」と言う。現実とはかけ離れたところで成立している報道への憤りが、カメラを“凡景”に向けさせたのだ。
百科事典なみの厚さの本を開くと、カオス(混沌状態)が両眼に飛び込んでくる。狭いアパートや古い戸建ての1室が趣味の本やレコード、雑貨などであふれかえっている。足の踏み場もない室内も多いが、居住者にはこのうえない快適空間なのだろう。実際、私たちは前記の乙にすました豪邸より、はるかに興味をそそられる。都築はこの混沌空間を8つの系統に分類している。最終章が「HERMITAGES」(隠者の住居)であり、近作の「着倒れ方丈記」に連綿と続いていくのだ。
「犬が人をかんでもニュースではない。逆なら然(しか)り」的な感覚が身に染みついたプロはありふれた日常からニュースを発掘できずにいる。だから都築の仕事は続く。広い視野で、私たちが見過ごしている凡景を切り取っている。「本当はいち読者でいたい」との切願は当分、かないそうもない。その結果、看過ニュースをまとめた1冊が届くのはありがたい。(文化部 安原 直樹)
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