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写真集の狩人

HIV感染者の7年の実録 「MONSTER」 菊池 修写真集 (リトルモア・3200円+税)


 モノトーンの中で、その男は現実を生きている。エイズに対する世間の僻見と闘いながら―。本書は、HIVに感染した男の7年間にわたる実録。90年代、世界の戦場を駆け巡ったカメラマンは現実を直視し、エイズがもつ一元的な負の印象を変えることに身魂をくだいた。エイズ禍の深層が見て取れる貴重な1冊だ。

 その男とは、日本HIV陽性者ネットワーク・ジャパンプラス代表の長谷川博史。英国・通信社のエイズ企画の取材を請けた菊池が最後に行き着いた先だった。カメラは服薬から始まる長谷川の日常を貪婪(どんらん)に追っていく。薬の副作用などで体重は50キロまで半減したという。モノクロ写真には、その痩身から発散される喜びや悲しみ、痛覚までもが見事に封じ込められている。

 本の題名は「長谷川の、病気の、自身の、モンスター性から取った」と話す。「自身の―」とは、菊池の中にも世間と共通するエイズへの差別と偏見という“怪物”が存在していた、との告白だ。そんな菊池は壁にぶち当たる。社会の求めに応じ、エイズを恐怖という単一の枠でくくり、陽性者を過剰な善人に撮ろうとしていた。ジレンマから撮影を中断した。

 その時の心象が数枚のカラー写真となっている。雨から晴れの景色へ。揺れる心のメタファー(隠喩)であり、リアリストの苦渋を見る。1年が過ぎ、長谷川の友人であるエイズ患者の死によって、撮影が再開される。葬儀場には涙で顔をゆがませるモンスターがいた。ありのままの姿を愛機ライカM6で撮ろうと、菊池はひとり胸に誓った。

 巻末には、こう書かれている。「いまでも、エイズとどう向き合っていいかわかったとは言えない」。心情の吐露(とろ)。菊池に限らず、私たちの多くは実際、エイズを正しく理解できていない。厚生労働省の調べで、07年のHIV抗体検査(保健所など)が13万件弱にとどまっていることからも、ただやみくもエイズを恐れている。その忌避行動が、新たなモンスターを生んでいるのである。(文化部 安原 直樹)


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