エジプト、パリ、ハワイ、上海…ここは世界のメジャー観光地。雲一つない青い空、降り注ぐ太陽、意図的なフラット画面が、非日常を演出する。心が解放された舞台で繰り広げられる脚本なき観光客たちの“群像劇”。人々が地を出した瞬間の滑稽(こっけい)を集めている。
約5年をかけて、世界16カ国40カ所をめぐった。「観光地の周りには広告的なにおいを感じる」。売れっ子カメラマンならではの鋭敏な嗅覚が、絶好の被写体を探し当てたのだ。
白とびしたハイキーな画面。「MAGLITE」の広告写真などで有名な師匠・藤井保のアンダー調とはテイストを異にする。「(本の被写体の場合)重たい風景よりフラットが適すと思った」。その自分なりの解釈が、浮き世を離れた空気感を醸す。
しかし、構図的には点景の手法などが継承されている。たとえば、エッフェル塔上の柵に連なる群衆やモアイ像の丘の老夫婦は、目をこらすと姿が見えてくる。熟視によってハタと膝(ひざ)を打つ得心の構図は師譲りであり、瀧本は「写真や社会との向き合い方などで影響を受けている」と話した。
瀧本は自らも旅行者のスタンスを崩さない。被写体と一定の距離を保っているからだ。記念写真の撮影者の後ろから、気づかれないように狙うショットが多い。そこには窃視的な愉悦すら感じる。
好天、順光による作風を重視するため天候リサーチは欠かさない。最高の撮影日和、4×5インチのリンホフを構える。アングルを決めた時点で若干の演出は加わるが、目の前の光景はすべてドキュメンタリー。太公望が竿先から目を離さないように、瀧本は長時間、獲物を待つ。「キターッ」。外国人の大男が口を開けて、歴史的な建築物(多分)を仰ぎ見る。巨大魚がかかった興奮をもってシャッターを切るのだった。
事前に絵コンテを用意するが、「毎回それを上回るカットが必ず撮れる」。瀧本には偶然を必然に変える力がある。(文化部 安原直樹)
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