• 文字サイズを変更
  • 小
  • 中
  • 大
写真集の狩人

悲哀の廃墟が未来像を啓示 「建築の黙示録」宮本隆司著(平凡社・4900円※絶版)


 来月21日公開の映画「ようこそ、アムステルダム国立美術館へ」(08年オランダ)の試写会後、本書を書斎の棚から取り出した。映画は美術館の創設以来という大規模改修をめぐるドキュメンタリーだが、その賛否をめぐる騒動の外におかれた建築物に本書に通じる悲哀の沈黙を見つけた。廃墟の姿である。

 初版は1988年の発刊(「新・建築の黙示録」として復刊)。主に20世紀初頭に建てられた国内外の劇場、要塞(ようさい)、刑務所などの解体現場が収められている。パワーショベルなどの重機が、かつての装飾美あるいは重厚堅牢に鋭い爪を立てる。騒音、崩壊、粉塵。外壁のコンクリートが引きはがされ、梁(はり)の鉄骨がむき出しになる。カメラは解体の中途、地面に転がった石片の一つ一つに至るまでディテールを積み上げており、膨大な情報量だ。来場あるいは収監された多くの人々の摩擦で生じた熱はもはや完全に冷めている。静寂。時が止まった無音のモノトーン世界が無限に広がっているのだ。

 宮本のアイロニカルな視線を感じ、冷ややかな叙事詩を読むことになる。ユートピアを理想として設計された建物群がディストピアに堕ちた姿を無残にさらすゆえだ。芥川賞作家の平野啓一郎は「人の儚さと建造物の儚さとは同じ無常の底知れぬかなしみの渦中にある。人が死ぬように、建造物も壊れる」(「文明の憂鬱」より)と説く。

 しかし、悲嘆にくれてばかりではない。私たちは完ぺきな美的秩序の陵辱に性的な興奮を少なからず覚えるのかもしれない。都市はスクラップ&ビルドの歴史を繰り返し、現在の景観を形成している。景気の浮沈によって、そのスピードは加減する。ひと昔前のバブル期、主要都市は大きく変ぼうした。更地となったとたん、人は以前の建築物の記憶をなくしてしまう。「写真は時間の明解な薄片」(スーザン・ソンタグ著「写真論」より)。本書の記録が、見る者の想像力を呼び起こし、あるべき未来の都市像を啓示するのだ。(文化部 安原直樹)


mixiチェック このエントリーをはてなブックマークに追加
県内ニュースの記事全文は紙面をご覧ください。千葉日報を購読する

当ホームページの記事、画像などの無断転載を禁じます。すべての著作権は千葉日報社および情報提供者に帰属します。

Copyright (c) CHIBA NIPPO CO.,LTD. All rights reserved.