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写真集の狩人

二足の草鞋の静かな“告発” 「バス停留所」柴田秀一郎著(リトルモア・2500円+税)


 絶大な人気を誇った元首相の構造改革の旗振りで、社会全体が効率に走ったあまり、失われつつある景色が広がる。日本列島を北海道から沖縄まで縦断したバス停留所の数々だ。なるほど採算を考えれば、赤字バス路線の廃止は必定かもしれない。しかし、である。効率優先の結果、何が残ったか?社会の荒廃と人の厭世(えんせい)だろう。その危機を一見、牧歌的にもとられるモノクロ写真で静かに訴える“告発”の書だ。

 32歳で現代写真研究所(東京・四谷)に入学。手ほどきを受けたのが、風景写真の第一人者・竹内敏信というのが興味深い。日本の原風景をテーマとする師に対し、柴田が無価値の人工物にカメラを向けたからだ。「地方都市やポストなどいろいろ撮っていたが、先生(竹内)の助言もあってバス停に決めた」。約11年前、会社員としての仕事の合間をぬって、関東近郊から撮影に取りかかった。

 バス停の表示板が地方道の傍らにポツンと立つ。擬人的な言い方をすれば、哀愁が漂う。しかし、人が加わったとたん表情が一変。不思議と楽しそうだ。柴田は無機物の気持ちを代弁するカットを秀逸なシーンに仕上げる。銚子市外川町のカットはバスを待つおばあさんの前をおじいさんが通り掛かる。時候のあいさつだろうか、会話が始まる。そんな路傍の日だまりに向けた目線が優しい。無人のバス停は画面の端におき、余白が様々な想像をさせる。遠く富士山がかすみ、近く海が波音を奏でる。バス停は長年の風雨で鉄さびを浮かべ、地域景色の一部になっている。そこに効率優先の時代に対する皮肉な留保はない。柴田は消失していくバス停に新しい美を見つけ、「継続して取材する価値がある」と断言した。

 あとがきに「サラリーマンと写真家の二足の草鞋(わらじ)を履いている」とある。このことわざはふつう良い意味では使われないが、二面の職業を兼ねてもいいではないか。効率とは対極のそんなゆとりが、この一冊を世に出す結果となったのだから。(文化部 安原直樹)


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