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写真集の狩人

結像された私的な物理法則 「光と重力」今井智己著(リトルモア・3800円+税)


 風景写真はどこに向かっているのだろう。わが国ではいわゆる観光写真に端を発し、その後のカメラ機材の進歩を背景にあまたの写真家が機動力を最大限駆使して、一大ネイチャーブームを巻き起こした。しかし狭い国土ゆえそうそう手つかずの日本景を見つけられるはずもなく、被写体は次第に路地、横丁、廃虚、工場群などと枝葉に分かれていく。つまり、万人が好む風光明媚(めいび)から極私的な世界に深く入り込んだのだ。そこで発見された主観的景色。本書もそんな風景写真の行き先を示唆する一冊である。

 表紙の写真は画面のほぼ中央に裸木を、周囲を細い3本が取り囲んでいる。晴天のしかも日中の順光で写したのだろう。正面から当たった太陽の輝きが、中央の樹皮がはがれた無残なさまをさらす。生命が尽きようとする想念が伝わってくる。が、ひとたび目を右下に転じれば、幼木の若葉が萌え出ている。この画面にタイトルの「光」と種子の落下による「重力」が結像されている。私的な物理法則である。今井は秘密の樹林の中で、写真における始源的なコミュニケーションを図っているのだ。彼の冒険はデビュー作「真昼」(青幻舎)から約9年を経て、より個人的な興趣の世界観を形成している。

 樹景のあいだに橋やトンネル、室内など人工物の写真が挿入されている。この対比からも主題を明確に感じる。以前ならこの種の被写体、構図、光線状態は誰の視野にもなかった。バブル景気に踊らされ、物事の美醜の「美」こそ良と思い違いしていたからだ。その泡が弾けると、枝葉の「醜」にも目が向けられるような時代になった。新たな視点の発見であり、対話から生まれる写真言語の重要性を認識させられる。

 巻末近くに編んだ湿土に枯れ葉が堆積するカットは、カラーでありながらモノクロの調子まで色をそぎ落とす。静寂の中で一葉一葉が黒光りしている。ほぼ光と影に諧調(かいちょう)を切り詰めたことで重みをともなって、主題をより印象づける一枚だ。(文化部 安原直樹)


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