写真集の狩人

神秘的な子どもの肖像写真 「LORETTALUX」 ロレッタ・ラックス著(青幻舎・3500円+税)


 絵画と見間違った。それほど本書に収められた少年少女たちのポートレート(肖像写真)は、神秘的な美しさを秘めている。まるで陶器の人形のような端正な顔立ちは、ある種のフェティシズムの対象ともなり得る。しかし、ここではフェティシズムが本来持つ触覚的体験を離れ、視覚的体験によってのみ許される眼福を得るのだった。

 壁面や青空など背景の単純化によって、私たちの目は画面の中央におかれたモデルを自然と凝視することになる。柔らかな髪の白皙(はくせき)の子どもたちに目尻は下がるが、その次の瞬間、突き放されたような寂寥(せきりょう)感に襲われる。なぜなら多くの作品で、両者の視線が合わないからだ。子どもたちはどこか遠くを見つめ、ひとり夢想の世界をさまよっているよう。その現実離れした雰囲気が、神秘性を醸す結果となっている。

 旧東ドイツ生まれのロレッタ・ラックスは元は画家だ。序文によれば、「彼女は、自分の子供部屋に掛けられていたベラスケスやルーベンスが描いた子供の肖像の複製画を忘れられないでいる」という。そんな少女時代の影響があって、巨匠が絵の具と筆を使って名画を仕上げたように、彼女は被写体に向けてシャッターを切ったのだろう、と想像させる。

 モデルとストックしておいた背景をデジタル合成した作品が多いそうだ。目の前の現実を記録する手段である写真は長い間、撮影後に手を加える(トリミングさえも)ことを一部の商業目的を除き、邪道として忌(い)み嫌ってきた。いわゆるドキュメンタリー宣言というヤツだ。しかし、彼女の作品は技巧が鼻につく脚色の対極にある感動を与える。まさしく写真における新たな審美の確立に成功したと言える。

 子どもたちの写真に紛れ込ませるようにした自身のセルフポートレートは、とても暗示的だ。口唇に右の人さし指を当てたシーッのポーズ「The Hush」。題名が示す通り彼女は沈黙をもって多くを物語るのだった。(文化部安原直樹)

県内ニュースの記事全文は紙面をご覧ください。 千葉日報を購読する

千葉日報ご購読お申し込み

千葉県産健康食品

千葉日報の本

千葉日報社から

当ホームページの記事、画像などの無断転載を禁じます。 Copyright (c) CHIBA NIPPO CO.,LTD. All rights reserved.