本を収集するのには、写真界の芥川賞と呼ばれる木村伊兵衛賞が一つのより所となる。1975年設立の同賞は34回を数え、新たな写真表現や被写体選択などで私たちを瞠目(どうもく)させた有為な新人を毎年、発掘している。
今回取り上げた小林は第18回(92年度)の受賞者。写真史の時間軸をさかのぼり、古書店散策していたある日偶然、狩人の目に本書の背表紙が飛び込んできた。その刹那(せつな)、題名のファースト・ライト(最初の光)が射した。値段は1万円程度だったが、その喜びの対価として決して高く感じなかった。
東京、神奈川、埼玉、山梨の1都3県で84~91年に撮影した風景を収める。変容、還元、記憶の3章立てで作品を並べ、被写体選択に新規性を見る。当時の風景写真は風光明媚(めいび)がいわば常識だったが、それを一気に瓦解させたのだ。
旧来の自然美を最上とする風景写真の価値感において、本書の作品群は無と言わざるを得ない。序文の言葉を用いるなら「1枚1枚が=中略=“最初の光”の喜びであり、認識の上にある知覚の純粋の喜び」をフィルムに焼写している。
レンズを向けたのは犬の死体、老朽アパート、解体中の民家、投棄されたトラック、空き瓶の山、工場群などだ。全面にピントが合った精緻(せいち)な遠近表現には、私たちのノスタルジックな感情が入り込む余地はない。にもかかわらず、小林が好む日常の果てしなさが、そこに透けて見えてくるのだ。
時代を振り返ると、日本は異常な好景気に沸いたバブルのとば口に立っていた。この時、私たちは金銭で得られる物質とともに、得られない景色を意識下で渇望していたのかもしれない。小林の新たな視点に共感できる下地が静かに出来上がりつつあったのだ。そして好景気の泡はあっさり弾ける。視覚の発見への欲望は小林の視点をより極私的なものとして、廃墟や工場、アパート群に向かい、一大ブームにつながる。四半世紀も前にその嚆矢(こうし)があったのだ。(文化部 安原直樹)
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