絵画などの芸術が一品主義をもって至宝とするならば、その意味で焼き増しできないポラロイド写真も当てはまる。ポラロイドは米ポップアートを代表するアンディ・ウォーホルを筆頭に、多くの芸術家が愛用したことでも意義深い。しかし、この写真は永久保存の点で心もとなく、機材の生産終了と相まって、まさに消えゆく芸術なのだ。
この本はポラロイド写真集。撮影したのがコンパクトカメラ「リコーGR1s」を愛機とする森山だから、希少価値が加わっておもしろい。カメラ雑誌の仕事でポラ撮影したのをきっかけに、その特集を引き継ぐ形で1冊にまとめた。
タイトル「Passage」が示す通り、森山が東京・中野、杉並区、武蔵野、小金井市を「通行、通過」して街の表情を“狩り”撮っていく。飲み屋街や商店街、看板、ポスターなどをとらえ、都市のスナイパーの歩くリズムが感じられる。森山の作風である強烈なコントラスト表現がここでは影を潜める。すえた、くすんだ、シーンとした雰囲気。画面中央が白くとんだハイキー調などは機材特性によるものだ。医療用の白黒フィルムをあえて選んだため、編集途中でさえ初期作品は退色が見られたという。
出版翌年の2000年、本書の作品に撮り下ろしを加えた記念展覧会をタカイシイギャラリーで開き、100点あまりは「一瞬にして完売した」(ワイズ出版)。森山の人気の高さを物語るエピソードだが、果たして画面に当時の像がそのまま残っているのか、個人的に大変気に掛かる。
ポラロイドシステムは米国の科学者が発明。1972年の「SX-70」の登場で世界を席巻した。しかし4年前に本体の、昨夏にはフィルムの生産が終了。メリットの即時性がデジタル化の波にのみ込まれたのだ。在庫がなくなり次第、芸術表現法の一つはこの世から消滅してしまう。最終製造フィルムの有効期限で推測すると、残された時間はあと約半年。これも時代と涙して、本書のページを繰るのであった。(文化部 安原直樹)
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