写真集の狩人

舞踏と写欲、奇跡の出会い 「鎌鼬」 細江英公著(青幻舎・5000円+税)


 本書のオリジナル版が上梓(じょうし)された40年前、時代はモノクローム写真が主流だった。印画紙の白と黒は、極論で生と死の世界を暗示する。万物のカラー文化に慣れた私たちの目は、ザラリとしたモノトーンの肉体劇に何を見出すのか-。

 日本の写真史上で不朽の名作と呼ばれる原本の廉価版。未発表8作品を加えるなどの再編集により、一層の光芒(こうぼう)を放つ。舞踏家・土方巽(1928~86年)と細江英公の写欲の奇跡的な出会い。そこからドラマが始まった。

 主舞台となったのは、土方が生まれ育った秋田県羽後町田代。「後書」によると、2人は彼の地で犯罪的ともいうべき傍若無人に振る舞った。たとえば「畑の中で野糞(のぐそ)をたれ、お嫁さんを襲い、赤ん坊を攫(さら)って田圃(たんぼ)を走り…」の蛮行。暗黒舞踏の創始者が半裸で狂喜乱舞する。

 モダン・ダンスなど既成の様式美を拒んで、肉体の暗部に目を向けた舞い。季刊誌「プリンツ21男の肉体」(95年)に寄せ、舞踏家・三上賀代は「舞踏家は一瞬の雷鳴の刻を生きる者」と定義する。細江は目の前で次々と起きる「(その土方の)電光石火の暴力的ハプニング」を活写したのだった。まさに2人は鎌鼬(かまいたち)。触れなば、皮膚がスパッと裂かれそうな鋭利な殺気が画面にみなぎる。

 かつての写真展は「とてつもなく悲劇的な喜劇」と題され、あいさつパネルには「絶対演出による写真展。解釈も批評も自由」と書かれていたそうだ。その写真術をとらえ「モノクローム写真の魅力」(98年)で「土方の肉体を媒介としたフォトドキュメント」と評された。

 収穫した稲を干す稲架(はさ)の角に座す土方のカットは有名だ。広角の仰角ショットはモデルをなめ、背中辺りから天に向かって突き上がる暗雲をとらえる。死するまでの生のすべてを舞踏に捧げるという情念。舞踏家の死生観(暗部)を投影しているかのようだと、自由に解釈した。(文化部 安原直樹)

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