▼亜熱帯の自然をモチーフに、画面いっぱいに描き込まれた花や木、鳥やチョウなどから生命力があふれる作品群。中央画壇に背を向け、奄美大島で孤高の生涯を終えた千葉市ゆかりの日本画家、田中一村(1908~77年)の人気が根強い
▼千葉市美術館で開催中の「田中一村新たなる全貌」展が、幅広い年齢層の来場者でにぎわっている。代表作をはじめ新たに発見された資料を含む約250点をそろえ、69年の生涯をたどる本格的な回顧展だ
▼栃木に生まれ、東京から移り住んだ千葉市千葉寺町で20年間。50歳の時、新境地を求めて奄美に渡った。ほとんど無名のまま人生を終えたが、テレビの美術番組で没後紹介されたのがきっかけで反響を呼び、広く知られるようになった
▼独学を貫き、試行錯誤の千葉時代。のどかな農村風景などの作品は、今では懐かしい時代を伝えてくれる。残されたスケッチブックや資料類も公開され、構成や構図などの創作過程が浮かび上がってくる
▼奄美では、のびやかな線と豊かな色彩で南国の濃密な空気感を静謐に表現した画風を確立する。あえて貧しさの中に身を投じ、切り詰めながらの生活だったという
▼人々を引きつける一村の魅力とは何だろう。自らに厳しく、理想を追い続けた姿に共感する人も多いのかもしれない。作品には、画家が生涯追い求めた楽園が凝縮しているようでもある。