▼小学校の国語教科書にあった文章の一節をなぜか鮮明に覚えている。それは「『どさ』『ゆさ』」という会話の部分だ
▼なにやら意味不明な呪文や戦場の合言葉のようだが、種を明かせば青森の人同士の会話で、語尾の「さ」は標準語の助詞「へ」に相当し、「ゆ」は「湯」。つまり「『どちらへ』『銭湯へ』」という意味になる
▼「どこへ」の代わりに「どこさ」と言うのは、千葉の方言とも共通している。「どさ」「ゆさ」の記憶が今も鮮やかなのは、千葉と似た言葉が遠く離れた土地で話されていることへの新鮮な驚きを子ども心に感じたからに違いない
▼現在に比べ、児童も大人たちも方言で話すことがはるかに多く、また当然でもあった時代だ。学校の先生も、方言で児童と話すタイプと、絶対に方言は使わず標準語で押し通すタイプとにはっきり分かれていた。子どもたちが親近感を覚えたのはやはり方言派の先生たちで、標準語派は人気度では全く歯が立たなかった
▼恐らくテレビなどの影響が大きいのだろう。その方言も最近は、日常生活の場面で影が薄くなった。若い世代では方言を話さない人の方が多数派のようだ
▼全国にその土地特有の方言が根付いているのは、日本語の言語としての豊かさを示す証しの一つだろう。何事も画一化へと進む味気ない時代だけに、方言という言語の多様性は後世まで残したい。
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