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忙人寸語

2010年2月18日

▼年を取ると、読書の好みも変わってくる。若いころは「過去の人」として見向きもしなかった作家に突然興味を覚え、夢中になることもしばしばだ。50代にして“再発見”した、そんな作家の一人に永井荷風がいる

▼主要作は今も文庫などで手軽に読め、近年は復刊や再刊も多い。時ならぬ大ブームに沸いた小林多喜二や太宰治には遠く及ばないとはいえ、一定の愛読者はいるということだろう

▼筆者が最初に読んだのは代表作「墨東綺譚」。東京・玉の井の歓楽街を舞台に男女の交情を描いた作品というのでさぞ湿っぽい文章だろうと予想していたのだが、読んでみたら正反対。余計な先入観は見事に裏切られ、カラッとさわやかな味わいがあった

▼荷風といえば、終戦後の晩年を市川市で過ごしたことで知られる。散策好きの荷風のことだから、地元には生前の荷風と街角ですれ違った子ども時代の体験を持つお年寄りもたくさんいるだろう

▼江戸っ子の荷風が市川暮らしを余儀なくされたのは、太平洋戦争中の空襲で自邸の偏奇館が焼失したため。戦中は時局に完全に背を向け、作品の発表もできない不遇な日々だっただけに、その喪失感は察するに余りある

▼晩年の日課となった浅草通いは死の直前まで続けた。劇場の楽屋に入り浸り、踊り子たちと楽しく興じる荷風の姿は写真にも残っているが、表情はやはりどこか悲しげだ。

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